「VUCA(ブーカ)」とは、将来の予測が困難な状況を示す造語である。IT技術の急速な進歩や新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業を取り巻く環境は大きく変化している。これからの企業は、VUCA時代においてどのような組織づくりを行うべきなのだろうか。環境の変化に対応する人材育成、マネジメント手法とは。VUCA時代における組織づくりを考えよう。

知っておきたい「VUCA」の意味とは? 「VUCA」の時代に企業は何が求められる?

「VUCA」とは、社会あるいはビジネスにおいて、不確実性が高く将来の予測が困難な状況であることを示す造語である。

 VUCAは「Volatility(ボラティリティ:変動性)」「Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性)」「Complexity(コムプレクシティ:複雑性)」「Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧性)」の頭文字を並べたもの。もとは冷戦後より戦略が複雑化した状態を示す軍事用語であったが、2010年ごろより、「VUCAワールド」「VUCA時代」のようにビジネスでも用いられるようになった。

 VUCAに込められた4つの単語が示す通り、VUCA時代とは変動性が高く、不確実で複雑、さらに曖昧さを含んだ社会情勢を示す。

 企業を取り巻く環境は、この20年で大きく変化している。2000年にかけてはIT革命によって産業構造が劇的に変化し、2020年においては新型コロナウイルスによってこれまでの常識が通用しなくなってしまった。

 企業はVUCA時代に順応できる、変化に強く柔軟性の高い組織づくりが必要となる。

●「VUCA」時代、企業に求められているものは
 VUCA時代、企業には人材マネジメントの刷新やステークホルダーへの積極的な情報発信が求められる。

・日本型人材マネジメントからの脱却
 いわゆる日本型の雇用システムを継続している企業の成功は今後難しくなってくるだろう。組織の根幹を担うのは人材だ。

 新卒一括採用ののち、終身雇用で安定的な雇用によって人材を強化するのではなく、多様な価値観を持つ多彩な人材を適材適所で活用する必要があるだろう。一つの目標に対して全員が一方向から取り組むのではなく、常に新たな風を取り込み、イノベーションを生む組織づくりに取り組まなければならない。

 これまでの常識が通用しないVUCA時代にマッチするのは、慣例にとらわれず互いの多様性を認め合える柔軟な思考を持つ人材だ。また、ビジネス環境の変化を敏感に感じ、自分で考え行動できる人材の育成も急がれる。

 これらの人材を獲得し育成するために、採用基準の見直しや従業員の再配置、スキルアップを目指せる研修制度の創設、スキルに応じた人事制度の構築を行う必要がある。

・ステークホルダーに対する積極的な情報発信と対話
 VUCA時代に企業の競争力を向上させるために、これからの経営戦略の中心は人材戦略となることをステークホルダーに理解してもらう必要がある。

 そのために、まずは経営陣が新たな人材戦略を理解するとともに、ステークホルダーに対して人材戦略を見える化し、よりよい人材の獲得・育成に向けて建設的な対話を重ねなければならないだろう。

 社内外のステークホルダーとの対話が十分か、今一度確認してみよう。人材の獲得・育成に関する投資は、コストではなく企業価値を支え高めるものとして中長期的な投資戦略がなされているのか。その情報を社内外に発信できているか検証する必要がある。

「VUCA」に対応する4つの組織づくりのポイント

「VUCA」時代に対応し、成長を続ける企業になるためにどのような組織づくりを行えばよいのだろうか。VUCAに対応する組織づくりの4つのポイントについて見ていこう。

(1)「VUCA」の情報収集と分析
 まずは自社にとって何がVUCAの要素となっているのかを知り、それら不安定要素に関する情報を収集する。

・Volatility(変動性)に関する情報とは
 IT技術の進歩によって新規市場が生まれたSNS等、変動性の高いサービスによってマーケティングの手法が変わるといった変化が、経営に大きな影響をおよぼす可能性がある。新規ビジネスが生まれては消えるVUCA時代、変わりゆく技術やサービスに関する情報収集を怠ることはできない。

・Uncertainty(不確実性)に関する情報とは
 大規模な自然災害、人口動態は予測できない経営におけるリスク(不確実性)である。東日本大震災のような大規模な自然災害が起こった際にどのような影響が考えられるのか、停電等が発生した際の体制をどうするのか、過去の事例から学ぶ必要があるだろう。

・Complexity(複雑性)に関する情報とは
 ビジネスの推進を阻害する複雑な情勢を紐解くための情報収集も欠かせない。ビジネスのグローバル化が進む今、国内の政治・経済の動向をチェックしているだけではビジネスを拡大できない。

 海外進出を目指す企業、国外から材料等を調達している企業、輸出入業務を行う企業は、海外の政治情勢を知るための情報収集にはじまり、日本とは異なる商習慣の理解が必要となる。

 また、海外で人気のサービスを日本で取り入れる際には、ハードルとなる法律やニーズの違いを知るためにそれぞれの国の法律や国民性に関する情報を収集しなければならない。

・Ambiguity(曖昧性)に関する情報とは
 曖昧性の事例として、消費者の価値観が挙げられる。以前はマスメディアが主導してブームを作り上げ、消費者を意図的に誘導するようなマーケティングも可能だった。現在では、インターネットの登場によって消費者の意識が多方に分散し、消費者それぞれが独自の価値観を持ち、消費活動にも影響を与えている。

 従来のマーケティングの手法が通用しない現在、多様化し常に変化する消費者の価値観に対応すべく、消費者のニーズに関する情報をあらゆる方向からキャッチする必要がある。

(2)「VUCA」に対応できる施策を立案する
 VUCAに関する情報を収集し分析を行うと、自社が行うべき対策が見えてくる。VUCA時代に対応すべく、不確定要素に対する施策を立案しよう。収集した情報と分析結果を社内全体で共有し、経営陣だけでなく従業員とともに具体的な施策を考えよう。

(3)日常的に施策を実行する
 立案した施策は、日常的に実行することが大切だ。よりリスクが高まったときや実際に問題が生じたときのみ施策を実行するのでは、施策が適切かどうかわからない。

 立案した施策が本当に自社の「VUCA」対策になるのかを見定めながら一定期間実行し、問題があれば施策を修正していく。一連の流れの中で自社のVUCAへの適応力が高まり、組織の課題も解決できるようになるだろう。

(4)定期的に「VUCA」について考える
 情報の収集・分析、施策立案を1度行っただけではVUCAに対する意識は根付かない。日々変化する状況に対応できる人材を増やし、競争力を高めるためにも、VUCAに関する会議や勉強会を開くなどしてVUCAについて定期的に考える機会を設けよう。