治安当局による協定破棄に、学生たちの反発は強まっている。2021年1月19日撮影(写真:ロイター/アフロ)

 フィリピンで今「大学の自治」や「学問の自由」を巡る議論が沸騰している。

 きっかけは軍や警察当局が国立フィリピン大学(1908年創立)との間で結んでいた協定を一方的に破棄することを大学側に通告したこと。およそ30年間続いていたというその協定とは、大学構内に「大学の同意なしに警察や軍など治安当局関係者が無断で立ち入らない」というものだ。

 この通告が一方的であり、かつ権限を逸脱しているとして、大学側や学生、NGO、人権団体などが一斉に反発しているのだ。

 ではなぜ軍や警察は、長年続いた協定を破棄し、「大学の自治」を侵すような態度の出たのか。

 治安当局は協定破棄の理由について、非合法組織である「フィリピン共産党」とその武装部門である「新人民軍(NPA)」のメンバーにフィリピン大学の卒業生が多く含まれていること、さらには学内でNPAなどがメンバーの勧誘や宣伝活動を行っている疑いがあり「大学が共産勢力の温床となっている」と説明している。

 激しい議論が戦わされる中、インターネット上には一時、「フィリピン大学出身の共産党関係者」とのリストが掲載され、世論は騒然となった。リストは直後に削除されたが、治安当局がリストを公開した人物の捜査に乗り出す事態となっている。

 このように治安当局が「共産主義勢力への圧力」を強める背景には、イスラム教テロ組織「アブ・サヤフ」などとともに「反政府組織」の摘発・壊滅作戦を続けるドゥテルテ大統領の強い姿勢があると言われている。

1989年に国防省と比大学が締結した協定

 フィリピンのメディアが1月18日に明らかにしたところによると、1月15日に国防省がフィリピン大学のダニロ・コンセプション学長に宛てた書簡の中で「大学側との間で結ばれている事前の同意なしでの警察官や軍兵士のキャンパス内への立ち入りを禁ずるという合意を破棄する時が来た」と、一方的な協定破棄が通告されたという。