これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)
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平成15~19年:56~60歳
「年末は、いつまでお仕事ですか…」
「新年は、いつからお仕事ですか…」
暮れの挨拶の常套句に、恭平は苦笑しながらも胸を張って応える。
「年末は大晦日の夕方まで仕事して、新年は元旦の早朝から仕事です」
「えっ、お休み無しですか!」
恭平の仕事を知る誰もが、不用意な言葉を悔いてか、同情めいた顔をする。
年中無休24時間営業のエンゼルスとビジネスを始めてから、この生活パターンは変わらない。最初の年こそ多少の違和感はあったが、今では妙な優越感すら抱いていた。
大晦日の恭平の日課は、昼前から3つの工場を回り、各々の工場の社員食堂でパートタイマーの方々と年越し蕎麦を啜る。
生産現場への無沙汰を詫び、一年の労をねぎらいながら談笑し、「来年も、よろしく」と挨拶を交して、次の工場でも同様に蕎麦を啜る。
元旦の早朝には役員が揃って工場を回り、新年互礼会をハシゴする。
互礼会では、「本年も、よろしく」と言葉を交わしながら、年末に製造した自社のおせち料理と購入した他社製とに箸をつけ、自由に品評し合うのが恒例になっていた。
平成15年元旦、3工場での新年互礼会を終え、昼過ぎに帰宅。
自宅の食卓には、例年通り自社製のおせち料理と家伝の雑煮が用意されていたが、この年は、いつもと風景が違っていた。