戦線が全面的に崩壊しつつある中で、司令部は残存戦力の低下をにらみつつ、「持久戦」を選択――。
米オバマ政権が景気刺激策と金融安定化策を打ち出したにもかかわらず、ニューヨークダウが崩落を続けている現状を戦記風に描写すれば、上記のようになる。政権発足直後に景気と金融システムの双方について「電撃戦」的な一気呵成の策を講じるのではないかという期待感が市場の一部にはあった。だが、財政赤字がすでに大きく膨張していることや、政策金利がゼロに近づいており、予備戦力がもはや枯渇に近い状態であることから、そうした策は実現しようがなかったと言えるだろう。
米財務省、FRB(米連邦準備理事会)、FDIC(米連邦預金保険公社)など金融当局は23日、緊急共同声明を発表した。
声明は第1段落で、「金融市場が緊張している今回の局面で、米政府は金融システムをしっかり守っていく」「景気回復に不可欠な信用を供与するために必要な資本と流動性を銀行が保有することを、政府は確実にするつもりだ」「さらに我々は、システム上重要な金融機関を存続させる決意をあらためて強調する」といった文章が並んでいる。信用収縮が実体経済の悪化と「負の相互作用」を起こしている現状を踏まえ、資本不足や流動性不足を通じて信用収縮がさらに加速しないよう手立てを講じること、いわゆる「リーマン・ショック」の失敗を教訓に「大きすぎて潰せない(too big to fail)」原則を再確認することが、それらの趣旨。しかし、決意表明や原則論の確認によって、現実の「戦力」が供給されるわけでもなく、前線の士気は上がりようがない。
声明の第2段落では、10日に発表した資本支援プログラムに沿い、25日から大手金融機関の資産査定(ストレステスト)を行って資本増強必要額を算出すること、資本注入は普通株に強制転換が可能な優先株で行うことなど、資本増強は経済環境がより厳しくなる場合に予想される将来の追加損失に対する「クッション」であること、資本調達はまず民間で行い次が政府による資本注入という順番であること、などが説明されている。
そして最終段落で声明は、「現在、米大手金融機関は資本が十分にあると見なされるのに必要な量を上回って資本を保有している」と断言。末尾では、「我々の経済は、金融機関が民間部門でうまく経営されている時に、よりよく機能する。したがって、資本支援プログラムの強い前提は、銀行が民間の手にとどまるべきだということだ」とした。大手米銀の国有化懸念から株式市場で売りが強まっていたことを強く意識し、そうした懸念をとりあえず否定し、市場に安心感を与えようとしたくだりであることは明らかである。だが声明の言い回しは婉曲で、国有化という選択肢の全否定にはなっていない。