給与BPOの規模レベル
さて、ここまでは具体的な給与BPOサービスの内容や費用について述べてきましたが、本章では、給与BPOベンダーの規模による違いについて説明します。便宜上、規模レベルをLV.1~LV.3と定義します。
図8:給与BPOベンダーの規模レベル
従業員数や拠点が多くなるにつれて制度も複雑になっていきますので、適切な規模レベルのBPOベンダーから選択する必要があります。
「グローバル給与BPO」という選択肢
前章で給与BPOのレベルについて述べましたが、日本ではあまり知られていない「LV.3」の「グローバル給与BPO」について少し触れておきたく思います。その名の通りですが、世界中の国々で異なる社会保障や税制に沿った給与計算を一括で引き受けてくれるBPOサービスとなります。
世界には国が200弱ありますが、その大半の国々の給与計算に対応できるベンダーが、若干数存在します。このようなサービスを導入するのは、世界規模で展開しているような製薬・化学・海運などのメジャーなグローバル企業が中心となります。
日本発のグローバル企業がこのようなサービスを導入することはほとんどありません。基本的に日本で導入するのは、海外のヘッドクォーターが決定したので仕方がなく導入する日本支社が大多数です。これはある意味正しい結果で、日本向けのオペレーションに限定すると、ほぼ間違いなくサービスレベルが下がります。
理由はいくつかありますが、グローバルで画一的なプロセスやサービスレベルを適用されることが多く、日本向けにローカライズできていない(するつもりがない)という事情が大きいです。その結果、日本の社会保険や所得税などの法要件に適合した給与計算自体は問題なく対応できるのですが、例えば、あるベンダーでは年末調整書類をクライアント側で収集してデータまで作成したファイルを送らないといけないといった、国内ベンダーのサービスレベルに及ばないことが多々あります。
一方で、テクノロジーに関しては先進的でグローバル人事給与システム(セルフサービスや課題管理システム含む)をBPO向けにテンプレート化(ローカライズも含む)してそれを世界各国のエリアごとに段階的に展開する「Wave方式」のグローバルプロジェクトを得意とします。
今月はアジア10ヵ国、再来月はヨーロッパ20ヵ国が本稼働といったように、最終的には数十ヵ国~100ヵ国以上が関わるプロジェクトは、国内のシステム&サービス導入では中々見ることがなく、そこは圧巻です。また、このような大規模な新システム導入ばかりではなく、一部のベンダーはオンプレミス(社内資産)の給与システムをクラウド化したり、VPNでクライアントの社内システムに接続してオペレーションをしてくれたりするようなサービスも行っています。既存システムを使ったままBPOを導入したほうがメリットがある場合は、そのような選択も可能です。
もし日本発のグローバル企業が各国バラバラで対応している給与計算をグローバルで1社のベンダーに統合することにより、多少のサービスレベルを下げてでも全体的なコストを圧縮したいのであればグローバル給与BPO導入の検討の余地はあります。世界をリードする先進的な大企業は率先してこのようなサービスを使っていますが、人員整理を前提とした導入であることが多いです。グローバル全体で給与業務に掛かるコストが課題になっているのであれば人員整理も含めた人材の再配置を前提として検討の価値はあります。
また、別の目的としては各国で個別の人事給与システムを使用している関係で他国の法人の人事情報や給与情報を把握できていないケースにおいて、グローバル給与BPOの導入をきっかけにしてグローバル共通の人事プロセスや人事データベースの構築を強制的に進めてしまうという考え方もあります。
給与BPOを導入する前に
ここまで見てきたように、「給与BPO」は給与計算処理を中心にしながらも、さまざまな選択肢があります。各ベンダーで対応できるオプションが異なりますので実際に検討をされる際には同じ条件で複数社に見積もりを取り、サービス対応範囲と価格とのバランスに注目して頂ければと思います。
すべての面で満足できるBPOベンダーは、おそらく見つかりません。自社でやっていることとまったく同じことを期待するのではなく、ある程度の覚悟を持って、うまくBPOベンダーを使っていくという思考が大事かと思います。
最後に、給与BPOを導入することにより、これまで担当してきた仕事を失う方も出てくる可能性があります。「社内での配置転換」や「BPO側による再雇用」を交渉材料にするなど、いろいろな可能性を検討したうえで進めていただければと思います。
著者プロフィール EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 国内独立系IT、グローバルITコンサルティング、グローバル給与BPOを経て現職。キャリアを通じ、一貫して「人事管理」および「給与計算」を中心とした基幹業務システム導入に携わる。前職ではグローバル給与BPOの日本法人立ち上げに参画し、Japan Functional Leadとして数々のグローバルプロジェクトに従事し、システム&プロセスのローカライズ、クライアントへのシステム&サービス導入、海外オペレーション支援などを担当。2018年6月より現職で給与システム導入を専門としてビジネスの拡大に努めている。 |