小諸城の石垣。撮影/西股 総生(以下同)

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

◉「気まぐれ城散歩・小諸城(前編)」はこちら
◉太字の用語は西股総生・著『1からわかる日本の城』参照。

古風な石垣、昭和テイストな城内も魅力

 小諸城の魅力の一つは、仙石秀久が築いた古風な野面積み(p20)の石垣。石垣は、後世に積み直された箇所も多いが、本丸には古い石垣がよく残っている。とくに天守台は、豊臣期の積み方の特徴がよくわかる。

写真1:本丸には仙石秀久の築造になる石垣がよく残る。採ってきた石をそのままランダムに積み上げた野面積みには、ワイルドな美しさがある。

 石垣の隅の部分に注目してみよう。一応、算木積(p24)になってはいるが、石が四角く整形されておらず、技術的には発達途上のものだ。天守台を下からじっくり見上げたら、今度は上に登ってみる。

 平面形が真四角ではないのが、わかるはずだ。四隅が張り出して、四辺が内側に湾曲し、かなり歪んでいる。あり合わせの石をランダムに積んでゆく野面積みなので、平面が直線&直角に整わないのだ。とはいえ、仙石秀久がこの上に建てた望楼型(p46)の天守は、威風を払っていたことだろう。

写真2:天守台の石垣。平面が大きく歪んでいる様子がよくよかる。角部分が算木積みになっている事に注意。

 石垣を堪能したら、本丸の周囲を歩いてみる。城域の先端、東屋や島崎藤村の詩碑が立っているあたりに行くと、いっきに展望が開ける。眼下には千曲川が流れている。そう、この城は、千曲川にのぞむ断崖絶壁の上に築かれていたのである。

写真3:城域の突端から眺めた千曲川。「小諸なる古城のほとり…」という島崎藤村の詩は美しいが、現実の小諸城はえげつないほど難攻不落な軍事要塞だ。

 しかも、城域の両サイドには、深い谷がザックリと二重に切れ込んでいる。これは「田切り地形」といって、浅間山の麓に形成された火山灰台地を、小さな川が浸食してできたものだ。天然の巨大空堀が、城の両サイドを強力に防禦しているわけだから、両サイドから城に攻め込むことは、とうてい無理! 千曲川の絶壁からも、当然無理!

写真4:城の側面には田切地形の谷が入り込んでいる。画面左手が本丸。この谷、突破できると思います?

 小諸城が、軍事基地として重視されつづけてきた理由が、よくわかる。この城は、北国街道や城下の方から見ると、たしかに「穴城」だ。しかし、逆にいうと、攻め口はその方向しかないのである。つまりは、占地が要害堅固。

 だとしたら、城域のいちばん端、つまり千曲川の断崖に寄せた側に本丸を置いて、二ノ丸、三ノ丸を城下に向かって並べてゆけばよい。敵は、身動きの取れない狭い台地の上で、三ノ丸 → 二ノ丸と順に攻め取ってゆかなくてはならない。あとは、要所を石垣と枡形虎口で固めれば、難攻不落の城ができあがる。

写真5:二ノ丸から本丸へは堀切を橋で渡る。小諸城は、両側を谷で守られた台地の上に直線上に曲輪が並んでいる。

 さて、城内をひととおり回ったら、駅の反対側へ行ってみよう。駅前の公園を抜けたところに残っている大手門は、必見。このあたりは、近代以降は市街地化され、大手門も女郎屋となって改造され、ボロボロの状態で放置されていたが、最近になって修復され、本来の姿を取り戻した。江戸初期~豊臣期に遡る貴重な建物として、今は国の重要文化財に指定されている。

写真6:駅の反対側に残っている大手門。とても立派な櫓門だ。左手の石垣の上から横矢がビシバシかかることに注意。

 天然の地形を利用して要害堅固な城とする、戦国乱世のリアリズム。強引に石垣を積んで、中心部をコンパクトな縄張りで固め、その上に櫓門や天守を載せて、難攻不落な占領統治の拠点を築き上げる、豊臣期のトレンド。一つの城の中に、この二つの要素がまぜこぜになっているところが、小諸城の魅力なのだ。

 もう一つ、僕の個人的な感想なのだけれど、小諸城は城内の整備の仕方が垢抜けない。何となくノンビリした土産物屋やお蕎麦屋さんがあったり、展示施設が古色蒼然だったり、小さな動物園があって親子連れが遊んでいたり・・・。でも、そんな昭和テイストが残っているのもまた、この城の魅力だと思うのだ。

写真7:昭和テイストの漂う城内。明治以降、市民の憩いの場として愛されてきたからこそ、城が残ったのだ。その意味では、こんな昭和テイストも城の歴史の一部。

 

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