非同盟主義インドの米国への急接近
南アジアの大国インドは、伝統的に非同盟、全方位外交を志向してきた。しかし近年、特に米国との関係強化に積極的に取り組んでいる。
その大きな理由は、「一帯一路」構想に基づき、アジア・太平洋と中東・アフリカ・ヨーロッパを結ぶ海上交通路(シーレーン)の中央に位置するインド洋への海洋進出を拡大・活発化させ、また、陸上における国境紛争を引き起こしている中国からの脅威の増大に対し協力連携して対抗するためである。
6月中旬にヒマラヤ山脈の標高約4300メートルの国境付近ラダックで発生したインド・中国両軍の衝突では、20人のインド軍兵士が死亡し、インドと中国の緊張が高まった。
また、インドは、中国による影響力の拡大に対する懸念を理由に「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)から撤退したことも記憶に新しい。
The Print(2020年10月26日付)の報道によると、インドのS.ジャイシャンカル外務大臣とラジナート・シン国防相は、10月下旬にインドで、それぞれの米側のカウンターパートであるマイケル・ポンペオ国務長官とマーク・エスパー国防長官と会談し、「地理空間協力(Geospatial Cooperation)のための基本的な交換協力協定」(BECA)に署名した。
BECAは、基本的に、米国防省の国家地理空間情報局とインド国防省との間で推進された協定であり、この協定に基づき、インドと米国は、高度な衛星や地図、航海および航空チャート、測地、地球物理学、地磁気、重力データなどの地形データを含む軍事情報を共有することができる。
そして、両国が地理空間情報を共有することによって、弾道ミサイルや巡航ミサイル、無人機などインド軍の重要兵器システムの精度を高めるとともに、両国軍隊の相互運用性を可能にする。
また、米国から「MQ-9B(リーパー)」武装ドローンの取得を進めるインドにとって重要なステップとなり、インドが中国との軍事的ギャップを狭める重要な役割を果たすものと見られている。
BECAに先立ち、インドと米国は、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)(2002年)と物流交換覚書(LEMOA)(2016年)を締結している。
2017年6月、ナレンドラ・モディ印首相が訪米し、ドナルド・トランプ米大統領との初の首脳会談で、戦略的パートナーシップを強化していくことで一致した。
また、2018年9月には初となる米印「2+2」閣僚会合を実施し、先端防衛システムへのアクセスを促進し、インドが保有する米国製プラットフォームの最適な活用を可能とする通信互換性安全保障協定(COMCASA)を締結し、今般のBECA署名へと繋がった。
他方、インドは、特に海軍力および空軍力の近代化において、海外からの装備調達や共同開発を推進しており、近年、米国はインドにとって主要な装備調達先の一つになっている。
米国から購入した「P-8I」哨戒機8機をインド南部の基地に配備しており、2016年7月には追加4機の購入契約を締結している。