ここ数年、日本列島では河川の氾濫や堤防の決壊が相次いでいる。2019年には九州北部への集中豪雨や房総半島台風、東日本台風、2020年も九州を襲った7月の集中豪雨によって多くの浸水害や土砂災害が発生した。このような大きな被害が発生するのは、温暖化による気温や海水温の上昇など気候変動も原因の一つだが、土地の地形条件を無視した開発が行われてきたことも大きな要因になっている。
日本の平野は河川が形成したものであり、海岸や湖岸は河川が運ぶ土砂によって陸化が進んできた。ただ、自然現象として地形が変化する一方で、私たちは干拓や斜面の造成など人為的に造られた土地もある。そういった土地が浸水害や土砂災害の現場になるケースが後を絶たない。
私たちが暮らしている地形には、もともとどのような特性があり、どのように形成されたのか。そして、私たちはどのように土地を改変、利用してきたのか──。『地形と日本人 私たちはどこに暮らしてきたか』(日本経済新聞出版)を9月9日に上梓した金田章裕(きんだ・あきひろ)京都大学名誉教授、京都府立京都学・歴彩館館長に話を聞いた。(聞き手:鈴木皓子 シード・プランニング研究員)
──「平野は河川がつくったものである」と述べられています。
金田章裕氏(以下、金田):現在、我々が生活している場所のどこがどんな地形なのか、特に都市だとまったくわかりません。コンクリートかアスファルトで埋め尽くされて、重機でならされていますから。それは農村地帯でも同じです。「圃(ほ)場整備事業」(農地の区画整形)によってブルドーザーで地形をならしていますので、もともとの形がどうだったのかすごくわかりにくくなっています。
平野とは河川がつくったものです。そこで、河川によって形成された台地と低地を人間がどのように利用してきたのか、歴史的にやってきたことの意味や問題点を第2章で説明しました。
重要なのは河川、川の役割です。
平野は簡単にいうと、台地(段丘)と低地からなっている平地のことです。台地も低地も、河川が土砂を堆積してつくられた平地の一部ですが、台地は河川が堆積してできた平地が河川によって削られて(浸食)、削り残された土地です。
一方、低地には扇状地と自然堤防帯(自然堤防や後背湿地)、氾濫平野、三角州平野や三角州があります。人間は非常に苦労して川に堤防を造り、水害を防いできました。しかし歴史的な堤防と、近代になってからコンクリートとブルーザーなどの重機が発達して大規模な工事ができるようになった堤防とはずいぶん違います。
かつては筋違い堤や遊水地、微高地などを何とか使いながらコントロールしようと努力してきました。災害を避けるために、人間が住む場所はどうしても限定されました。少しでも高いところや安全なところ、川沿いでないところが住む対象だったわけです。
ところが現在は、昔の人たちであればとても住もうと思わなかったような川沿いの場所でも人がたくさん住むようになっています。しかし、そういう場所は地形的に弱いからどうしても災害を受けやすい。
それに、堤防を造ると堤防は川が暴れないように閉じ込めようとします。でも、集中豪雨などで大増水すると、堤防の力と川の営力がぶつかり合ってせめぎ合った結果、地形的に弱いところがやられてしまう。第3章には「堤防を築くと水害が起こる」というタイトルをつけましたが、それは堤防で無理に川を閉じ込めようとしたために水害が起きるからです。