(舛添 要一:国際政治学者)
アメリカ大統領選挙、開票が進んでいるが大接戦で、すぐには最終的な結果が出そうもない状態である。
今のところバイデン候補が優勢であるが、トランプ大統領は容易には敗北を認めないであろう。郵便投票などに不正があったとして法廷闘争を展開する予定である。来年の1月20日には、新大統領が就任することになっているが、それまでの間に様々な混乱が生じる可能性がある。
なぜ、このような事態になったのか。新型コロナウイルスの感染拡大が、郵便投票や期日前投票を増やしたことは事実だが、それは本質的な問題ではない。大きな問題が二つある。一つは、4年前にトランプという人間を大統領に押し上げたポピュリズムであり、もう一つはアメリカ民主主義の制度が時代にそぐわなくなっていることである。
社会の分断を招いたトランプのポピュリズム
第一に、トランプという異色の指導者を生んだアメリカのポピュリズムが、社会の分断という病理をもたらしていることを強調したい。
4年前、大方の予想を覆して、ヒラリー・クリントンを破りトランプが勝った。それは、アメリカ第一主義を掲げ、「アメリカを再び偉大に(Make America great again)」をスローガンに大衆を動員することに成功したからである。ラストベルト(錆び付いた工業地帯)で職を失った白人労働者が、大挙してトランプ支持に回ったのである。
トランプは大統領になるや否や、次々と公約を実行に移していったが、経済では保護貿易主義を貫いた。そして、オバマ政権の政策を否定し、TPP、パリ協定、イランとの核合意から離脱していった。
そこには、世界のリーダーとして国際社会に公共財を提供しようなどという考えはひとかけらもない。同盟国に駐留米軍費の増額を求めたり、米軍の撤兵を示唆したりして、自由世界の安全を脅かすような事態すら招きかねない「アメリカ第一主義」である。