10月28日、2021年度予算案に対する施政方針演説を行う文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 あの判決から丸2年が過ぎた。韓国で元朝鮮半島出身労働者(元徴用工)への賠償を日本企業に命じた韓国大法院の判決である。

 この判決に日本政府は当然ながら抗議し、未だに膠着状態が続いている。その間韓国側は、様々な妥協案を出してきているが、あくまでも大法院判決を前提としており、日本側に受け入れ可能な案は出していない。

 そうした中、先月29日、日本外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長は韓国を訪問し、局長協議を開催。徴用工問題、日中韓首脳会談のソウル開催問題などを話し合った。

 一方で韓国の裁判所は、徴用工問題を巡って三菱重工に対しても公示送達の手続きを開始、12月30日には効力が発生することになった。

 これまで韓国側は、日本の報復措置を恐れ、資産現金化に躊躇してきた雰囲気ではあるが、来年4月には、次の大統領選挙の前哨戦となるソウルと釜山の市長選挙が予定されている。市民活動家に常に寄り添ってきた文政権として、政権基盤強化のため、日本企業の資産現金化に乗り出すのか最近の動向を通して予測してみたい。

局長協議は平行線、徴用工問題解決の見通し立たず

 対面での局長協議の開催は8カ月ぶりだった。今年2月の新型コロナの流行以降は初めてである。

 徴用工問題を巡る日本企業の資産売却の流れができ、日中韓首脳会談の年内開催可否は依然として不透明のままである。この局長協議で何らかの問題解決の糸口が見いだせない場合には、日韓関係がさらに泥沼に落ちる可能性も考えざるを得ない中での局長協議の開催であった。

 その協議の中で、日本側はこれまでと同様、「日本企業資産の売却は極めて深刻な事態を招く」、「韓国国内にある日本企業の資産が現金化されないよう、韓国政府として日本側に受け入れ可能な解決策を早期に解決策を立てよ」と申し入れた。

 これに対し韓国側は、日本政府と企業が解決に向け「より誠意のある姿勢」を示すことを求め、さらに「(日本側が韓国に対しとった)不当な(先方発言のママ)輸出規制を早急に撤回」するよう要求した。