(塚田俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)

 新型パンデミックは、未曽有の影響を社会経済に与えた。各国の財政当局は、コロナショックと戦うために必要なすべての対策を採るとし、米国は、昨年度の3倍に当たる3.3兆ドルの新規国債を発行し、コロナ対策緊急支援費を賄った。この結果、米国の国債依存度は、予算総額(6.5兆ドル)の5割に達した。我が国も、57兆円のコロナ対策緊急支援を決定し、これにより国債依存度は、戦後初めて5割を超えた。言い換えれば、世界のリーディング・エコノミーの2つである米国、日本のいずれもが、その通常予算の5割以上を国債に依存する状況となっている。

 このような過度の国債依存は、何も、米国、日本に限ったことではなく、欧州各国においても、広く見られる。だが、このような膨大な財政赤字は、コロナ禍の収束とともに解消するとみていいのだろうか。今後さらに頻発すると予想される自然災害、さらには、日に日に緊迫の度合いを増す地政学的リスクを考えれば、現在の国債依存度は、増大こそすれ、軽減することはないと見る方が妥当であろう。数年もすれば、このような巨額の財政赤字は、常態化し、経済のニューノーマルとして、誰もが受け入れるようになる可能性すらある。

莫大な財政赤字状況を説明しきれない新古典派経済学、ではMMTではどうか

 このようにかつて類を見ない規模の財政赤字は、小さな政府そして均衡財政を主張する古典派、あるいは、新古典派経済学ではもはや説明しきれなくなってきており、新たな理論的枠組みが今必要となってきている。では、近時、引き合いに出されることの多い現代金融理論(MMT)は、このような新しい理論的枠組みを提示しているといえるだろうか? 果たしてそれは、従来の経済理論に置き換わるほど堅固な理論といえるだろうか?

 MMTに言わせれば、“政府は通貨の発行権を有するのであるから、自己金融(self-financing)は可能であり、財政赤字など気にせず、(景気の過熱を引き起こさない限り)どんどん政府支出を増やして良し”とする。さらに、MMTの主唱者の一人であるステファニー・ケルトン教授に至っては、“政府債務の増大は、民間の資産の増加であり、それは成長を促し、ひいては民間経済を強化する”と政府支出の増加を肯定的に評価する。

 他方、このような議論はあまりにも過激で、かつ無責任な議論であり、時流に乗っただけの泡沫理論であると断罪する識者は少なくない。だが、MMTは、従来の経済学ではともすれば見逃されてきた重要な問題に対し新たな視点を提示し、解決の方向性を示しているとは言えないだろうか? 本稿では、この問題に関し、最近特に注目されているケルトン教授の『財政赤字の神話―MMTと国民のための経済の誕生』(早川書房、原題『The Deficit Myth』)を取り上げ、MMT理論の有効性を検証したい。