実現しなかったフィンテック大合併
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック第2波が押し寄せるモスクワで、この1か月の間、ビジネス界の注目を集めているのは、ロシアのインターネット最大手ヤンデックスとインターネット銀行最大手ティンコフ銀行の合併話である。
その概要は10月2日付の大坪祐介氏の記事(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62334)に書かれた。
しかし、同氏の期待もむなしく、10月16日にこのディールが破談となったことをロシアのメディアが報じた。
(両社の株価推移を文末に添付)
本稿では破談に至った経緯と、その背景をよく理解するためにティンコフ銀行のファウンダー、オレグ・ティンコフ氏についてお伝えする。
ティンコフ氏は、ロシアにおける著名なアントレプレナーで、これまでいくつもの企業を創業している。
ディール・ブレークに至った経緯
ヤンデックスによるティンコフ銀行買収の話は9月22日に発表された。
しかし、1か月も経たない10月16日にその取引の破談が報じられたのである。この短い期間の両社のやり取りについて、メディアで報じられているものを以下でまとめた。
●9月22日
TCS Group Holding PLC (ティンコフ銀行の親会社、ロンドン証券取引所上場、以下TCSグループ)は、ヤンデックス N. V. (以下ヤンデックス)にTCS Groupの株式を54.8億ドル(約5729億円)で売却することで基本合意したことを公式発表。
これはTCSグループの前日終値に対して8%のプレミアム買取価格となる。
●9月23日
オレグ・ティンコフ氏(TCSグループのファウンダー)は、自身のインスタグラムページに「まだ銀行を売却したわけではない、しかも“売る”のではなく、ヤンデックスとの合併であり、自分は引き続き銀行で経営を続ける」と投稿。
●10月4日
オレグ・ティンコフ氏は自分のインスタグラムアカウントで銀行の業績、顧客口座数とその目標値についてコメント、さらにヤンデックスとの取引成立の確率は50対50と発言。
●10月14日
ロシアのインターネットメディア「The Bell」はティンコフ銀行はヤンデックス以外にロシアの大手携帯キャリアMTSとそのグループ銀行であるMTS銀行と提携交渉中と報道。一方、ティンコフ氏はこの交渉を否定。
●10月16日
TCSグループはヤンデックスとの買収交渉を中止したことをロンドン証券取引所で発表。しかしながら、ヤンデックスとの共同プロジェクトは引き続き協議を続けると発言。