汚職捜査を専門にする捜査機関「KPK」の弱体化を黙認したとされるジョコ・ウィドド大統領(写真:ロイター/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚 智彦)

 インドネシアで公務員の汚職事案を専門的に摘発する国家機関「国家汚職撲滅委員会(KPK)」が存続意義を失いそうな事態に陥っている。

 KPKとは、1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権の“負の遺産”である「汚職・腐敗・親族重用(KKN)」の残滓を軍や警察が払拭できていない中で、悪弊根絶のため、国民の期待を一身に受けて設立された捜査機関だ。

 その期待に応えるように、2003年の設立以来KPKは、現職閣僚、国会の議長や議員、地方政府首長、地方議会議員、国営企業幹部、在外公館大使、政府機関・官庁幹部などの公務員による贈収賄事件を次々と摘発して、国民から拍手喝采を浴びてきた。

 軍や警察が過去のKKNを依然として引きずり、権力者の汚職や犯罪着手に躊躇する中、逮捕権、公訴権を持つKPKは、麻薬捜査に当たる「国家麻薬取締局(BNN)」と並んで「インドネシア最強の捜査機関」と称されるばかりか、警察や軍の腐敗構造にさえも果敢にメスを入れてきた。

 ところが最近、そのKPKから、国民に人気のあった報道官を含めて30人以上の大量退職者が出ていることが分かった。

 さらにマスコミ報道で広く知られるようになった元警察幹部だったKPKトップの倫理規定違反には「訓告」という大甘な処分が下されたこともあり、少し前から囁かれていた「KPKの弱体化」がいよいよ現実のものになってきたとの印象を国民は感じ取り始めている。

名物報道官ら34人がKPKを退職

 9月26日、インドネシアの有力週刊誌『テンポ』などは一斉に衝撃的なニュースを伝えた。2019年12月の新委員長就任以降だけでKPKの職員、捜査官ら37人(正規職員29人、非正規職員8人)が退職していたのだという。

 退職者の中には、大物政治家や官僚が逮捕された際の記者会見などでの堂々とした態度や理知的な語り口が人気だった「ミスターKPK」フェブリ・ディアンシヤ報道官も含まれていたことで、国民の大きな関心を引いている。

 人気報道官を含めた「大量退職」報道のインパクトは、KPKの内部で起きている「ただならぬ事態」を想起させるのには十分だった。