菅義偉新首相が省庁再編を目玉政策として打ち出したことが話題となっている。菅首相はデジタル庁の創設に加え、厚労省の組織再編にも言及している。厚労省は30兆円もの予算を持つ巨大官庁だが、その大きさゆえに組織のコントロールが効かないという問題が指摘されてきた。コロナ危機では政府の対策が迷走に迷走を重ねたが、その原因の1つが厚労省の組織形態にあることは明白であり、昨年(2019年)には統計不正問題が発覚している。国民生活への影響が極めて大きい役所であり、何らかの改革が必要なのは間違いないだろう。(加谷 珪一:経済評論家)

あまりにも巨大すぎる組織

 厚生労働省は2001年に実施された中央省庁再編によって、旧厚生省と旧労働省を統合する形で発足した官庁である。当時は行政のスリム化が強く叫ばれており、統合によって合理化を図る狙いがあった。だが新しく発足した厚生労働省は、他の府省と比較してあまりにも規模が大きく、これが様々な問題を引き起こす要因となった。

 厚生行政と労働行政は、他の行政分野と比較すれば近い位置にあると言えなくもないが、基本的にはまったく別の領域といってよい。厚生行政系には医政、健康、医薬、年金、老健、社会援護などの分野が、労働行政系には労働基準、職業安定、雇用均等などの分野があり、それぞれに局レベルの大きな部署がある。

 しかも同省は単なる政策官庁ではなく、公的年金、医療保険、労働保険、職業紹介(ハローワーク)など巨大な実務部門も抱えており、現業官庁的な色彩も濃い。

 本省には3万人を超える職員がいるが、旧社会保険庁から業務を引き継いだ日本年金機構を含めると5万人を超える。2020年度の一般会計における厚労省の予算は約33兆円と他の府省を圧倒しており、毎年の予算要求だけでも大変な事務作業量だ。

 ここまでの規模になると、トップである厚生労働大臣がすべての業務を掌握するのはほぼ不可能に近い。他の府省でも大臣の力量によっては業務全体を把握できなくなるのはよくある話だが、事務次官を筆頭に、事務方の幹部がほぼすべての業務を掌握しているので、大臣を補佐することができた。