岸氏の防衛相起用は「安倍政権の継承」の証

 菅新首相が、岸氏を防衛大臣に抜擢した理由は何だったのか? 安倍政権時代の官邸関係者に聞くと、こう答えた。

「それは、安倍前首相に気を遣うと同時に、同盟国アメリカのトランプ政権に、『安倍政権の継承』を示すためだ。このところのトランプ政権は、『台湾シフト』を鮮明にしており、今後は日本にも役割を求めてくる。そうした日米台の連携に、最もふさわしいのが岸氏の起用だったというわけだ」

 当の岸防衛大臣は、16日の就任会見で、官僚が用意したペーパーを読み上げて、こう述べた。

「今月11日に発表された(安倍)総理大臣の談話や菅総理大臣の指示を踏まえ、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の考えのもとで厳しい判然保障環境において、平和と安全を守り抜く方策を検討していきたいと思います」

「11日の総理談話」とは、次のようなものだ。

<迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました。今年末までに、あるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします>

 いわば安倍前首相の「遺訓」とも言うべき「敵基地攻撃能力の保有」である。「敵」とは表向きは北朝鮮だが、実際には中国だろう。

「米台vs中国」――岸防衛大臣の就任で、この米中新冷戦の「断面」に、日本も組み込まれつつある。「まずはコロナウイルスの防止に全力を尽くす」と述べた菅新首相だが、その先には、大きな地政学的リスクが横たわっている。