・オハイオ州の「クリーブランド・クリニック」で分子医学と循環器病遺伝子学の研究をしていた中国人研究者チン・ワンと、アーカンソー大学で米国航空宇宙局(NASA)関連の研究をしていた中国系科学者サイモンソー・テンアンは、2020年5月、ともに詐欺容疑で逮捕された。2人とも米国公的機関から研究資金を受け取りながら、中国の千人計画への参加を隠していた。
・ジョージア州のエモリー大学の前教授で中国系学者のシャオジァン・リは2020年5月、税金の虚偽申告容疑を認めた。千人計画から受け取った巨額の収入を申告せず、エモリー大学で米国連邦政府から50万ドルの助成金を得てハンチントン病の研究を続けながら、千人計画への参加を隠していた。
レイFBI長官は、千人計画に関わる米国での犯罪事例を以上のように列挙し、中国が米国に対して不法な知的財産盗用の組織的な活動を続けてきたことを明らかにした。そうした活動に対して、米国政府は法的な取り締まりを本格的に開始した。米国での犯罪取り締まりの最大組織であるFBIの長官が、こうして中国の活動に焦点を絞り、強硬な態度を明示することは、最近のトランプ政権全体の対中姿勢の硬化を反映していると言えよう。
「日本人の参加を把握していない」日本政府
では日本はどうなのか。
千人計画に日本人の学者や研究者が参加したことは、中国当局が認めている。2009年9月、共産党中央組織部が、千人計画に外国人の学者や研究者204人が新たに参加することが決まったと公表した。そのなかに「日本からの招致」も明記していたのだ。
日本の国会では、2020年6月2日に開かれた参議院財政金融委員会の会議で、千人計画への日本の関わりについて質疑応答があった。自民党委員の有村治子議員が米国での最近の動きをあげて、日本としての懸念を提起し、政府当局に見解を問うた。
日本の学者には、日本を拠点として安全保障や軍事関連の研究をしてはならないという自粛方針がある。しかし、千人計画に加われば中国の軍事関連の研究に期せずして関わるのではないか、という懸念を有村議員は強調していた。
だが日本政府当局者は、「政府は日本人学者らの千人計画への関わりについてはなにも把握していない」と答えたのである。
米国の高度技術の不法な取得活動を展開する中国政府組織への日本人の関与が確実なのに、日本政府は実態を何も知らないという。その対応が適切でないことは明確であろう。