中国では、習近平国家主席がスパイ活動を厳しく取り締まるために反スパイ法を2014年11月に施行させた。以降、当局はスパイ行為で日本人を相次いで拘束しているのだ。
この男性は日本国籍をもつ元脱北者だった。在日朝鮮人の父と日本人の母と共に北朝鮮に渡ったが、脱北して日本に戻っていた。その後、日本のインテリジェンスを担う公安調査庁が接触。それから公安調査庁の協力者となり、たびたび中国に入っていた。
日中関係筋によれば、「この男性は、中朝の国境周辺で行われている両国のビジネスを調べる任務を行なって、日本に情報を送っていたようです」という。ただこの地域では中国当局も当然目を光らせており、簡単な任務ではなかったと思われる。筆者の知り合いのジャーナリストも、その地域で中国当局に拘束されたことがあり、そのあたりの事情は耳にしたことがある。
スパイとバレた経緯、日本はまだ分析できていない
現在のところ分かっているだけで、中国では日本人が14人、スパイ容疑で拘束されている。そのうちの9人はスパイ罪などで実刑判決を受け、服役中と見られている。
実は、今回帰国した男性が拘束された2015年頃、同じタイミングで他にも日本人が何人か拘束されている。そこには日本の情報当局の協力者も含まれていると見られる。ただ一気に何人かが捕まるという状況は明らかに普通ではない。しかも情報関係者によれば、「今回の男性も含め、当時捕まった協力者たちがどうしてスパイだとバレたのか、その経緯について日本側はまだよく分かっていない」という。
可能性としては、おそらく次の3つが考えられる。「日本の情報当局内に中国のスパイがいる」「捕まった日本人たちが同じ現地協力者と接触しており一網打尽になった」「単純にヘマをやった」。
もっとも、事実は闇の中だ。今回帰国した男性からも本当のことは聞けない可能性が高い。いずれにしても、日本人協力者の正体が中国でバレた理由が分からない状況で、引き続き活動を続けるのはあまりにも危険である。日本側の動きが完全に把握されている可能性もあるからだ。
そこで2015年当時、中国にいる公安調査庁の協力者たちは全員、即座に日本に引き上げさせられた。公安調査庁はそれ以降、協力者を中国国内に送り込むのを一切禁じているという。つまり、2015年以降、公安調査庁は中国でのインテリジェンス活動はほぼできていないということになる。
情報関係者によれば、「実は2015年の拘束事件より前は、公安調査庁は中国関連のインテリジェンスでは警察と張り合い、できれば警察を出し抜きたいと考えていた。中国が脅威となってからは、北朝鮮よりも中国の情報が求められるため、かなりの協力者を渡航させていたようだ。だが拘束事件が相次いだため、2016年以降は政府から中国関連の予算がストップされてしまっている」という。