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2019年12月に就役した中国海軍の空母2番艦「山東」。建造中の3番艦は2024年までに就役の見通しで、2021年に4番艦の建造が始まる(写真:アフロ)

(文:春名幹男)

 昨年(2019年)9月末、こんな事件があった。

 米海軍特殊部隊の精鋭組織SEAL「チーム6」の本部もある東部バージニア州ノーフォークの米海軍基地。緊張感漂う基地のゲートで、夫婦連れ数人の中国人グループが車で検問を通り抜けようとした。

 これに対し警備兵は「ゲート内にいったん入ってUターンし、出て行くよう」指示した。しかし彼らは構わず基地内を前進、前から来た消防車に阻まれ、身柄を拘束された。中国人は「英語が分からなかった」と見え透いたウソをついた。米国は「外交官」を偽装した中国情報機関員1人を含む2人を国外追放した。

「知らぬふり」して、相手国の領域に侵入する中国の手法は、尖閣諸島周辺でも、南シナ海でも、中印国境でも続いてきた。

 しかし、今回は少し違う。新型コロナウイルス感染被害を受けた米空母が通常の行動から外れ、穴が開くと、中国海軍空母「遼寧」を台湾海峡近くに派遣、米軍の裏をかいたのである。中国軍は「コロナ後」をにらんで、米軍から覇権を奪取する意思を示した。

 世界の関心は新型コロナのワクチン研究開発。中国は情報を入手するためサイバースパイ活動を展開していると伝えられ、米軍「サイバー司令部」および国家安全保障局(NSA)が警戒を強めている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)で対策に追われる米国とその同盟諸国などに対し、中露などは危険な軍事的挑発を続けている。米国では、新たな「世界大戦の引き金を引くか?」(米外交誌『フォーリン・ポリシー』)といった議論が起きている。

中国ミサイルに対抗し米海兵隊トマホーク装備へ

 日本にとって中国側からの挑発が最も懸念されるのは、東シナ海だ。

 米海軍情報部(ONI)によると、中国海軍は1990年代半ばから25年以上にわたって装備の近代化を推進。2020会計年度末の段階で、戦闘艦艇は中国が360隻で米国の297隻を大幅に超え、2025年400隻、2030年425隻と増え続ける。これに対して、米海軍は355隻体制を回復する目標を立案中だ。

 中国は2012年に初の空母「遼寧」、昨年12月には2番艦「山東」が就役、さらに建造中の3番艦は2024年までに就役の見通しで、2021年に4番艦の建造が始まる。最終的に空母は4~6艦体制になるとみられている。米国の空母保有数は11隻。太平洋への配備では、米国が3隻で、数的には中国の方が多くなる。

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