「われわれの担当部署が、開城(ケソン)工業地区にあった北南共同事務所を完全に破壊する措置を実行した。人間のクズと、それを黙認した者どもの罪の代価を与えるべきだと激怒した民心に応えたものである」
3月16日午後2時49分、ついに開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を、北朝鮮が爆破した。朝鮮中央テレビは、冒頭のように同日午後5時、緊急ニュースを流した。ドカーンという強烈な音とともに流れた爆破の映像は、まさに現在の南北関係を象徴しているかのようだ。
そんな中、今年も北朝鮮を訪れたという中国の北朝鮮ウォッチャーに、北朝鮮でいま何が起こっているのかを、緊急インタビューした。
堪忍袋の緒が切れた金正恩
――今回の爆破が意味するものは何か?
第一義的には、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対する金正恩委員長の怒りを表したものだろう。この一年ほど、北朝鮮の幹部たちと話すと、誰もが文在寅大統領に対する怒りを口にしていた。
いまからちょうど2年前、6月12日にシンガポールで、ドナルド・トランプ大統領と金正恩委員長の歴史的な米朝首脳会談が実現したが、その最大の立役者は文在寅大統領だった。その後も文大統領は金委員長に、「トランプは、『(朝鮮)半島の問題は全部あなたに任せる』と言ってくれているので、何も心配はいらない」「トランプが考えているのは自分の再選だけだから、そのためには何でも妥協する」などと説き続けたという。
文在寅大統領はその一方で、トランプ大統領に対しても、「金正恩委員長は私の言うことは何でも聞くから、私に任せてほしい」「北朝鮮は、国連の経済制裁解除を目の前にぶら下げてやりさえすれば、何でもやる」などと、やはり調子のいいことを進言してきたと、北朝鮮の幹部たちは言う。
ところが、文大統領の強い後押しを受けて昨年2月、ハノイでの2度目の米朝首脳会談に臨んだら、トランプ大統領は金委員長に対して、文大統領が言っていたこととは全然違うことを要求した。すなわち、古い寧辺(ニョンビョン)の核施設さえ破棄すれば、国連の経済制裁を解くということだったのに、他のあらゆる関連施設もすべて破棄するよう求めてきたというのだ。
金正恩委員長はハノイで、「文在寅に騙された」と、怒り心頭になった。それで帰国後、文在寅政権に「責任を取って何とか収拾しろ」と迫ったが、文政権は1年以上経っても何も手を打てないでいる。アメリカを説得できないどころか、韓国から北朝鮮を非難するビラを撒いたりして、自国の統制すらもできない。それで北朝鮮は、堪忍袋の緒が切れて爆破行為に及んだのだ。