マネージャーがアップデートすべき5つのマネジメントスキル

(1)部下に対する信頼感・肯定感は維持する
 上司からすれば、様子が見えないと、部下の働き方に不安は高まる傾向にある。しかし、「見えていない時間」に疑いを持ち始めると、それが言葉や態度に出て部下は不安になるし、上司自身のストレスにもなる。すると、上司と部下の信頼関係はギクシャクし、コミュニケーションが寸断され、余計な気遣いが始まり、しまいには大事な情報の“水漏れ”が始まる。組織の空気の色を決める起点はマネージャーである。まずはマネージャーが周囲への信頼感、肯定感を示すことが、接点が少なくなるテレワークでは重要になる。(部下が受け取れる数少ない情報が、不信と否定ではたまったものではない)

(2)ゴール/成果、やるべき業務、期限を明確に握ったマネジメントをする
 テレワークでは、当然、綿密な仕事のプロセス管理は不可能だ。「オフィスワークなら、いつも働きぶりが分かるのに」というような意見も聞くが、実はそれは幻想である。オフィスワークで働きぶりが適正に評価できているなら、人事評価はもっと平和に回っているだろう。ここは、むしろ「オフィスワークでもプロセスを見るのは難しいので、テレワークでうまくできないのは当然である」と割り切ることが正解だ。

 テレワークで仕事の管理をするときは「求めるゴール」、「そこに至るまでにやるべきこと」、「いつまでにそれをやるか」という3点を上司と部下が合意した上で進めることが必要になる。「なんだ、そのくらいはやっている」と思うかもしれないが、私などが見ていると、その約束が抽象的過ぎて機能していないケースが多いのが実態だ。

(3)意図的に3つのコミュニケーションの時間を設計する
 コミュニケーションの時間の1つ目は、オフィスワークで普段しているかもしれないが、テレワークの際も毎朝10分程度でいいので朝会や朝礼を行うといい。その中で、今日の業務予定と気になることなどを共有する場を作れると更に効果的だ。このとき大事なのは、一方的な業務連絡の場ではなく、参加者が話をする場であることだ。業務連絡だけならば、メッセージを配信すれば良い。

 2つ目は、1日か2日に1度くらい、オンラインミーティングのシステム上に集まり、雑談や情報交換を自由に行う時間を作ること。20分程度でも十分だ。そういう時間が定期的にあるということが仕事のリズムをつくる。

 そして3つ目は、上記の様に定期的に話すだけではなく、必要な時にお互いに声がかけやすい時間を明示することだ。テレワークでは、上司も部下も相手の状況が分からない。だからこそ、お互いスケジュールを公開して「今なら話かけても大丈夫」と気軽に声をかけられる環境作りを心がけたい。また、ビジネスチャットやSNSなどのツールを使い、部下から上司に「今いいですか?」と簡単にメッセージを送れるようにすることも合わせて行いたい。

(4)ネガティブな言葉や態度を避ける
 オンラインミーティングは便利だが、そのネガティブな側面も認識すべきだ。細かな雰囲気、表情、声のトーンが伝わらないため、何気なく放った一言が意図せず、ぶっきらぼうで投げやりで、敵意のある言葉のように伝わってしまうこともある。

 話す速度を少しゆっくりして、心持ち口角を上げて軽く微笑みながら話すくらいがちょうどよい。また、相手の話に意識的に相槌を打つことも(声を出さないとしても)、普段以上に大切だ。マイナス点を指摘する際も、まずはポジティブな側面をしっかりと認めた上で行う等の工夫や、全員がオンラインで繋がっている場で1対1では怒らない・・・等、オフィスでも重要なことだが、オフィス以上にネガティブ要素が膨張しがちなことは意識した方がよい。

(5)テレワークモードの距離感を使いこなす
 新型コロナウイルスによって、人と人との距離である「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」の重要性が注目された。テレワークでも距離感は大切で、「サイコロジカルディスタンス(心理的距離)」を適切に測ることが求められる。特に、オンラインミーティングの画面の向こうは、半分相手のプライベート領域である。その点を踏まえずに、相手の私生活、容姿、服装等に踏み込むなど、サイコロジカルディスタンスを見誤り、トラブルが起こるケースは、オフィスでリアルに接している時よりも多いようだ。全て仕事には必要ないことであり、トラブルを起こすくらいならむしろ、オンラインミーティングで画面をオフにした方がよい。

 また、サイコロジカルディスタンスが遠すぎて、会話が減ったり、変によそよそしくしたりしてもよくない。部下が「何か怒らせることをしたかな?」と疑心暗鬼に陥り、精神的に追い込まれたり、バーンアウト(燃え尽き症候群)状態になってしまったりすることもある。部下が5人以上いる場合で、必ずしもコミュニケーションの接点が多くない場合は、定期的(1~2週間に1回程度)に1対1のミーティングを行うことをお勧めする。

 テレワーク時のマネージャーに有効な内容で、実践しやすいものをピックアップしてご紹介したが、いかがだっただろうか。より、踏み込んだ内容や細かい話もあるのだが、それはまた機会を改めたい。

 そして、最後に。テレワークになると、マネージャーに必要な管理のための手数は上がる傾向にある。つまり、マネージャーも相当な負荷のもとで仕事をしなければいけないということだ。その意味では、逆説的だが自分を万能と思わないこともとても大事になる。自分の役割のフォーカスポイントを明確に定め、それ以外のところをチームに分散したり、廃止したりしていくことも、とても大事なことであるとお伝えしておきたい。

著者プロフィール

株式会社クニエ
HCMチーム マネージングディレクター
喜島 忠典

米系リクルートマネジメントソリューションズ、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現職。「企業の戦略実行力強化」をテーマに、数多くの組織・人事改革のプロジェクトに従事。変革期における組織・人材戦略のデザイン、人材マネジメントの仕組設計、およびチェンジマネジメントなどを手掛けている。主な著書に『部下が育つ組織をつくる技術(労務行政)』等がある。 コロナ対応やテレワークをはじめとした、組織・人事に関するオンラインセミナーも実施中。詳しくは、クニエのWEBページをご覧ください。

株式会社クニエ