成功するグローバルHRIS

 では、クラウドHRISをグローバルに展開する上でのキーポイントは何になるでしょうか。多くのケースでは各国ごとのHRISを段階的にもしくはビッグバンで一つのHRISに統合・集約していく導入スキームをとることになります。この時点では企業によってプロセスやデータなど様々な観点でのガバナンスのレベルはまちまちであり、導入へのハードルの高さは当然のことながらそれぞれ異なります。関係する全員が同じ方向を向くためにも、置かれた状況に応じて適度にストレッチでかつ実現可能な成し遂げたいビジョンを明確に掲げることがとても重要であり、事例を踏まえて導入フェーズや運用面でクリアーしないといけないポイントをご紹介します。

■図表2:EYにおけるSAP SuccessFactors導入プロジェクトのデザインプリンシプル

 こちらに掲載した図をご覧ください。EYがグローバル(150以上の国と地域、約28万人以上)に対してGlobal HRISとしてSAP SuccessFactorsの導入を進めているプロジェクトにおけるデザインプリンシプル(設計する上での原理原則となる方針)になります。元々、コアHRの領域は、オラクルのERP「PeopleSoft」のシステムに統合されていること、業界特性上、国によるビジネスモデルの違いがあまりないこと、英語が共通言語として浸透していることなど、標準的な日系グローバル企業よりは取り組みやすい状況にあったことは間違いありません。

 それでもEYでは原理原則を明文化し、プロセスにおける国ごとの例外は認めない、従業員の属性項目のキーとなる要素は完全にグローバルで統合する、といったルールを設定しています。モジュール毎に全世界一斉導入というビックバン方式での導入を進めており、既に複数のモジュールが稼働していますが、150以上もの国と地域からコンセンサスをとるのに収拾がつかないような事態に陥らないよう、常にこの原理原則に立ち返って議論を進めています。

 もう一つ、以前に筆者が経験したプロジェクトを紹介します。日系のハイテク企業で約20カ国、約1万名に対しての段階的な導入(日本⇒アジア⇒米国⇒欧州)というアプローチをとりました。プロジェクトの開始時点ではシステムも制度も国によってばらばらで、現状のままHRISを導入しても国を跨いで横串を通してデータを参照することができないという状態でした。そこでHRISの導入プロジェクトという位置付けより一段上の枠組みとして、「人事制度」、「HRIS」、そして「組織におけるHR役割・体制」を、どのようなタイムラインでそれぞれ整合性を持って変革していくのか、ということをプログラムレベルで管理し、人事としての目指す姿を段階的に実現させました。そして今もその計画は更新され続け、常に1年先、3年先といった具合に、制度やHRISが有機的につながりながら変革を続けています。まさに本連載の第6回で「ポリシー・ハーモナイゼーション」として触れた内容をグローバルHRISの導入と並行して実行することで企業にとって価値のあるHRISを導入したケースと言えるでしょう。

 これらの事例から分かるのは、グローバルHRISの導入には、HRとして実現したいビジョンや優先順位を明確にしてそのための原理原則を言語化して関係者が共通認識を持つこと、さらにシステムだけでなく制度や体制といった領域での変革とセットで取り組むことが非常に重要だということです。

 次回はグローバル企業としてHRの体制・役割がどう変わっていくべきか(HRターゲットオペレーティングモデル)についてご紹介します。

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス シニアマネージャー
山本 剛

米系大手ITファーム他、他Big4会計ファームを経て、2017年10月より現職。17年にわたり一貫してHRトランスフォーメーションの領域でのテクノロジー・プロセス両面からのコンサルティングサービスに従事。近年はグローバル企業におけるコアHRを含めたクラウドHRソリューションのグローバル導入を中心としたHRオペレーティングモデルの刷新を専門として担当。

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社