グローバル企業が世界で勝ち抜くには、国を超えてダイナミックに優秀な人材を最適配置する必要があります。そのためにHRIS(Human Resource Information System=人事管理システム)を導入するのですが、各国の拠点や子会社にスムーズに展開するのは至難の業です。今回はHRISの導入に際して理解しておくべき流れと失敗させないためのポイントをご紹介します。
HRテクノロジーの潮流
まずワールドワイドでの「Human capital management」 (人的資本管理、以下HCM)と「Payroll applications」(給与計算アプリケーション)のマーケット規模の予測を表したグラフ(図表1)をご覧ください。
ここから明らかなのは、サーバーなどの設備を自社で保有し運用する「On-premise」(オンプレミス)が完全に停滞する一方、「Public cloud」(クラウド)が2023年まで大幅に伸びており、その中でも特にHCMの領域でかなりの成長が見込まれているということです。
情報系SaaSと同じようにHRISの世界においても旧来型のERPからSAP SuccessFactorsやWorkdayといったクラウドソリューションへの移行がますます加速していくことはほぼ間違いないと言えるでしょう。
■図表1:オンプレミスとクラウドのグローバルマーケット規模(M$)予測(IDC調べ)
出典:IDC Worldwide Human Capital Management and Payroll Applications Forecast, 2019–2023, 2019
旧来のERPと最新のクラウドソリューションとの違いは多々ありますが、それぞれのベストプラクティスとされている導入モデルの差にHRISのグローバル展開を促進する決定的な要素があると筆者は考えています。
ERPでは人事・給与・勤怠といった各領域、さらには会計や調達・生産・販売といった人事以外のモジュールまでを、1システムで構築してシームレスに連携させることで、経営の意思決定をサポートすることがベストプラクティスモデルとされていました。ただし、各国の法規制に強く影響を受けるため法改正対応などの保守の観点からHRISをグローバル展開することは難易度が高いです。特に日本企業では人事の領域でERPのグローバル展開を実現できているケースは非常に稀といえます。また、タレントマネジメントの領域についてはERPの機能が十分でないことも多く、データを連携して別システムで実現していた企業のほうが主流でした。
対するクラウドのHRソリューションでは、ビジネスに資することに強くフォーカスしています。具体的には「誰が」、「どこで」、「どんな仕事をしていて」、「どのようなスキルを持っていて」、「どういうパフォーマンスをあげているのか」といったコアHR領域、そしてタレントマネジメントの領域で非常に強みを持っています。その反面、給与計算や勤怠管理といった、人事部門のオペレーションの要素が強く、かつ国ごとの法令に強く依存する領域については、そもそも機能を具備していなかったり、現状では非常に限られた国しかサポートしていなかったりという事情があります。それらの領域についてはローカルシステムやBPO(Business Process Outsourcing)を選択し、コアHRを管理するクラウドソリューションからデータ連携(インテグレーション)を構築することが一般的となっています。
つまりHRISのトレンドとしては、ERPからクラウドに移行することで、必然的に「一つの国の給与計算や勤怠管理といったオペレーション寄りの業務」を、ERPで効率的に運用するというステージから、「コアHRやタレントマネジメントといった戦略的な業務」をクラウド上でグローバルに統合しビジネスにインパクトを与える、というステージにシフトしつつあるということが言えると思います。