子ども置き去り事件の実話をモチーフにした『誰も知らない』

『万引き家族』は年金を不正に受給していた家族が逮捕された事件に着想を得たものだが、巣鴨子ども置き去り事件をモチーフにしたのが『誰も知らない』である。

『誰も知らない』

 母と息子の二人暮らしと偽り、引っ越してきた一家には四人の子どもがいた。小さな子がいると部屋が借りられない。母親は長男以外の子どもたちに「大声を出さない」「ベランダ、外に出ない」というルールを課す。ある日、「好きな人ができた」と母親が出て行ってしまい、子どもたちだけの暮らしが始まる。

 社会からはみ出したり、埋もれそうな人々にいろいろな角度から焦点をあてる是枝作品は、ニュースや報道で見聞きした有名な事件を扱いながら、全く違った印象を受ける。もしかしたら、自分のそばで起きたかもしれない、いや自分がそうだったかもしれないと他人事ではいられない。

 それほど、世界観に引き込まれてしまう要因の一つに子どもたちの生き生きとした表情が挙げられる。大人の前では決して見せない子どもの世界ならではの顔。安藤サクラが「子どもほど、空気の変化に敏感な生き物が自然でいられる現場の空気づくりがすごい」と感心していたが、カメラは親すら見過ごしそうな、子どもたちの瞬間を逃さない。

 監督は「うちの現場に来た子役の子たちはそれ以降、台本を覚えなくなってしまうらしいです」と苦笑していたが、是枝作品は作り物の演技とは無縁。『誰も知らない』では主演の柳楽優弥が史上最年少14歳でカンヌ国際映画祭主演男優賞に輝いた。

『誰も知らない』で特に見てほしいのは、家に籠っていた子どもたちがいそいそと外に飛び出していく際の晴れやかな面持ちだ。ステイホームがどれほど子どもに負担なのか。大人は知っているようで、実は理解しきれていないのではないだろうか。

 子どもは親が思っているよりずっと大胆で繊細。そんな子ども時代の気持ちを呼び起こしてくれるのが『奇跡』だ。

『奇跡』

 両親の別居によって、離ればなれに暮らすこととなった兄弟。彼らは以前のように一緒に暮らすことを夢見て、上下新幹線がすれ違う瞬間に願い事を叫べば叶うという奇跡の瞬間を求め、子どもたちだけで旅に出る。

 大人になると、子どもは気楽でいいなと勘違いする。子どもの頃の方がずっと些細なことで傷つき、思い悩んでいたというのに。別居している息子に「お母さんに会いたくないの?」と問いかける母親に、「お母さんは僕のこと、お父さんに似てるから、あんまり好きじゃないのかと思ってた」と息子が応える。「そんなこと、あるわけないじゃない」と母親はショックを受けるが、些細なことで、親は自分のことを好きじゃないのかな、嫌いなのかなと胸を痛めてしまうのが子どもだ。