© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018

 NHK連続テレビ小説「エール」の50話の展開が秀逸だった。

 音楽学校の記念公演「椿姫」の主役に大抜擢され、毎日、猛レッスンする音(主人公・裕一の妻)に妊娠が発覚。出産のために退学は仕方ないとしても、公演だけはやり遂げたい。そんな彼女に周りの目は冷たく、いまなら立派なマタハラ(マタニティハラスメント)にあたりそうだが、体調の変化で思うように声が出なくなっていたことを自覚した彼女は、裕一に背中を押され、出演を辞退することに。歌手になりたい。でも、子どもにも会いたい。「夢も子どももあきらめない」と涙する音に裕一は「音は何ひとつ諦める必要はない。そのために俺がいるんだから」とサポートを約束する。

 親になったらもう夢を追いかけてはいけないのだろうか。では、裕一のような、できた夫がいない人の場合はどうだろう。

スター歌手の夢諦めきれないシングルマザー

『ワイルド・ローズ』は『ジュディ 虹の彼方に』で注目されたジェシー・バックリーが、プロのカントリー歌手を目指すシングルマザーに扮した音楽ドラマ。バックリーが見事な歌声を披露し、英国アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされた。

 スコットランドのグラスゴーに暮らすローズはカントリーのスター歌手になるのが夢。いつかアメリカのナッシュビルに行きたい。行けば、何かが変わるはず。前科のある彼女は、家政婦の仕事をしながら、貯金を始める。すべては夢のために。

 ある日、彼女の歌声を聞いた裕福な雇い主のスザンナが彼女を支援したいと乗り出す。子育てがひと段落したスザンナはまだ23歳のローズに若い頃の自分を見たのだろう。「夢を追いかけられるのはいまのうち。子どもができたら、好きなことはできない」。そんな彼女にローズは自分の身の上を打ち明けられずにいた。ローズは10歳にも満たない幼い子どもたちを抱えたシングルマザーだった。

© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018

 ローズのキャラクターは脚本のニコール・テイラーがスター発掘番組で観た、とある女性シンガーが創造の源となっている。素晴らしい歌声の持ち主である彼女には道を踏み外した過去があり、5人の子どもがいた。「子どもたちのために夢を諦めるべきなのか。子どもたちとは別の人生を歩んででも、神が与えてくれた才能を花開かせるべきなのか」。その疑問を映画で追究したのだという。