「キャッシュ・イズ・キング」は本当か?

山本一郎

 例えば、先ほどのニセコの不動産ではありませんが、いろいろな不動産の投げ売りが始まっています。インバウンドやイベント、コト消費など付加価値を生む動きがあり、「密」であることそのものが不動産の収益力の源泉でしたが、人の動きが止まったことで収益力がガタ落ちしている。

 つまり、実体経済の中でも一番重要なファンダメンタルズ、企業や資産などがキャッシュを創出する力までダメになり始めている。そうなると、国がいくら景気刺激策だ、財政投入だ、と言ってもすぐには上向かない。そのため、足元では今の事態への対処が必要になります。

 一方で、コロナが収束した後、どういう社会を作るのかという出口戦略も同じくらい必要です。

藤野英人

 そうですね。

山本一郎

 相場を見ていても、非常に刹那的というか、ある種の楽観論がでている背景には、政府はマーケットを助けるはずだという共通認識があります。実際、各国はマーケットを下支えするために、かなり強いメッセージを出しています。欧州連合(EU)に至っては1兆ユーロ(約116兆円)規模の経済対策で合意しました。あの財政規律に厳しいEUがですよ。お金がジャブジャブに入ってくると思うと、怖くて逆に売れないという話になる。

藤野英人

 そうそう。

山本一郎

 そういう相場の心理が出てくると、今度はサブプライムローンの直前のように、みんなが油断したところでドカンと下がるんじゃないかという恐怖が生まれる。

藤野英人

 じゃあ、何を持てば安全なのかというのが非常に難しい。米ドルなのか、円なのか、ユーロなのか。でも、通貨そのものの信認も落ちている。そうなると、本当に「cash is king」なのか。さらに、キャッシュが稼げなくなるのだとすれば、不動産や会社の価値はどうなるのか。金はどうか、原油はどうかということを考えると、本当に逃げ場がない。

 結局、キャッシュよりも希薄化が相対的に少なそうな株式にお金が集まっているのかな、と思って見ています。

山本一郎

 そう。相対的に株式というチョイスになってしまう。ビットコインが上昇しているのもインフレヘッジでしょう?

藤野英人

 そうですね。間違いない。

山本一郎

 法定通貨とは異なり、ビットコインはすぐに供給量が増やせないので、結果的に通貨よりも安全な資産に見えてしまっているけど、そんなに使い勝手のいいものではないし、本来、そんなにバリューがあるものでもない。それでも、流通量が増えないという中で、インフレヘッジとしての期待で買われている。

『AKIRA』では缶詰が通貨代わり

藤野英人

 そう。その理屈。コロナ問題が起きた後、『AKIRA』というアニメ映画がネットで話題になりました。五輪の中止を示唆する予言の書だったのではないか、と。2020年に東京で五輪が開催されるという設定で、「東京オリンピック開催まであと147日」という立て看板が出てきますが、その下に「中止だ中止」という落書きがあり、今の状況に酷似しているので話題になった。

 久しぶりに、僕はマンガの『AKIRA』を読み直しました。すると、破壊された後の世界で通貨の代わりになっているのは缶詰やカミソリの刃なんですよね。今は、それに近い感覚を持っています。

山本一郎

 近いですね。マスク・イズ・カレンシーみたいな。マスクは一過性の話だとは思いますが、何に対してトラスト(信頼)を置くかということが今は揺らいでいるように感じます。

藤野英人

 そこなんですよね。

山本一郎

 そういうトラストをつくり上げられるような新しい社会環境をどう構築するかという点については官民が連携してことにあたらなければならないと思うのですが、青写真を明確に打ち出せている指導者はまだいません。それを最初に出せたところが、国として勝ち抜けしていくんだろうと思うんです。