一般の人であっても、高血圧と診断されて薬を飲んでいる人であれば、「ACE阻害薬」という薬をもらったことがあるかもしれない。このACEと、新型コロナウイルス感染症で言うACEとは同じものだ。

 ここで言いたいのは、ACEがありふれた存在のタンパク質であるということ。そして、新型コロナウイルス感染症の研究が進む中で、ウイルスがこのタンパク質をいわば悪用して細胞に入り込む仕組みがあると分かってきた。厳密に言えば、「ACE」と類似している「ACE2」と呼ばれるタンパク質に結合すると判明した。

 ACE2は、肺のほか、心臓や消化管、腎臓などに存在している。最近では、呼吸困難や咳のほか、下痢の症状に関係していたり、子どもでは川崎病のような症状を起こしたりすると報告されている。それらの背景には、このACE2の存在があると考えられる。

 このACE2の量と喫煙が密接に関連すると、今回、米国の研究グループは断定した。

たばこは短期的な死にも直結

 米国の研究グループが明らかにしたのは、たばこを吸うことで、肺の細胞でACE2を増やしてしまうことだ。ここまで紹介してきた流れからも分かるように、たばこを吸うのは「ウイルス大歓迎」の看板を肺の中に掲げるようなものだ。

 今回、米国の研究グループは、人間とネズミの肺の細胞を1個単位で分析。たばこの煙によって、細胞でACE2が増えることを確認した。結果的に、ウイルスは細胞の中に入りやすくなる。

 たばこの害については、これまで250種類もの有害物質が影響していると言われているが、ここまでピンポイントでたばこの有害性が分かりやすく判明することは珍しい。

 今回示されたたばこの有害性は、従来指摘されていたたばこの有害性とは一線を画する可能性もある。これまではたばこを吸ったからといって、その悪影響は短期的なものというよりも長期的なものだったからだ。

 基本的には、喫煙をしていて何が悪いかといえば、数年から数十年にわたって喫煙の習慣を続けることで、がんや心臓病などのリスクを高めてしまうことが問題視される面が大きかった。それに対して、新型コロナウイルス感染症においては、もっと短期的な死に直結する影響を及ぼす。ACE2の増加で、ウイルスが瞬く間に肺の細胞に入れば、一挙に重症化し、死に直結しかねないからだ。

 経済正常化に向けて、あらゆる施策が検討の俎上に上がる中、ウイルスの感染拡大や重症化の予防への対策が検討されている。そうした中で、ここまで分かりやすいウイルスの重症化につながるマイナス要素はないかもしれない。

 喫煙者本人だけでなく、周囲の人が煙を吸ってもACE2は増えるため、感染者の重症化、さらなる感染拡大にもつながる。「三密」が重なれば最悪の状況が生まれることになる。

 紹介され始めている「新しい生活様式」は、人々の日常生活を強い制限を課すものだ。先の見えない状況に絶望する人も多いのではないかと思う。その中で、喫煙の短期的で明確的な影響がよりはっきりとしたならば、喫煙文化が許容される余地はもはやなくなるのではないかと筆者は考える。