メンタルヘルス不調を防止するための職場サポート

 企業が相談窓口を設置しても、従業員から相談が来るのを待つだけでは功を奏することはない。上司や衛生管理者(衛生推進者)が、日頃から職場巡視をして従業員に声掛けをすることが、安全配慮義務の履行につながる。相談活動を充実させ、高ストレス者やメンタルヘルス不調者の勤務実態や健康状態に関する「変化」を見逃さないようにする。そして、労働者自身がストレスに気づいて対処できるようにするとともに、職場でのサポートに結びつけなければならない。

 近頃、職場の支援態勢がなかったことがストレス要因であるとして、労働者の自殺を業務災害と認める裁判例が相次いでいる。メンタルヘルス不調による退職や自殺という不幸な転帰を防ぐには、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の「職業性ストレスモデル」で、職場ストレス要因の緩衝要因として挙げられている社会的支援(ソーシャルサポート)が重要となる。企業での社会的支援とは、すなわち職場の上司や同僚からの支援・協力である。

 また、業務上のストレス要因に職場の人間関係によるストレス要因が加わると、休職する割合が増加したことが報告されている。その反対に、職場の人間関係が良好であり、同僚や上司の支援・協力が得られるのであれば、業務上のストレス要因があっても緩衝要因が機能するので、休職のリスクが減少するのだ。

 職場でのサポートは、上司や同僚ができる範囲のものであり、職場内で問題解決策を練るといったこととは異なる。本人の話に耳を傾け、助言をし、業務を手伝うことだけでなく、産業医との面接や専門医への受診をすすめたり、相談機関の情報を提供したりすることもサポートである。

 企業がシステム構築などに多額の費用を投じて業務環境を整えようとしたとしても、それだけではメンタルヘルス不調の防止には足りない。その一方で、職場巡視や声掛けによる相談対応は費用がかからない。地道でアナログではあっても、人によるアプローチも併用することが望ましい。

佐久間大輔
つまこい法律事務所 弁護士
企業のためのメンタルヘルス対策室

著者プロフィール

HRプロ編集部

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