武漢を訪れ市民に手を振る習近平国家主席(2020年3月10日、写真:新華社/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 中国の新型コロナ肺炎の感染は徐々に鎮静化に向かっているらしい。1日あたりの新たな感染者は5日連続で50人以下にとどまり、中国の人々はおそるおそると、日常を取り戻そうとしている。

 そういう中で、習近平国家主席は3月10日、感染発症後、初めて、新型コロナ肺炎の“震源地”である武漢を訪問した。さて、武漢市民としては、今頃来やがって! と思うか、ようやく来てくださった! と思うか。

決め台詞を発し、にこやかに手を振る習近平

 新華社によれば、習近平は3月10日、武漢市の感染拡大防止コントロール任務を視察に訪れ、「今回の感染症との戦いで、湖北と武漢が重要中の最重要な戦勝の地である」と強調。勝利宣言とまではいかなかったが、「艱難辛苦努力を経て、湖北と武漢が感染状況を積極的に好転させ、重要な成果を獲得した。だがこの任務はまだまだ厳しい戦いが続く」と述べ、まるで“俺たちの戦いはまだ続く”といった少年漫画の最終回みたいなセリフを決めた。

 それだけでは終わらない。

「武漢は英雄都市の名に恥じない。武漢人民は英雄的人民の名に恥じない。この新型肺炎との闘争の勝利を通じて、彼らの名は再び党の歴史書に刻まれるだろう。全党全国各族人民は、みなあなた方に感動し、感嘆し、党と人民は武漢人民に感謝するのだ!」

「今回の新型コロナ肺炎の予防とコントロールは、統治システムと統治能力にとって大きな試練であった。経験もあり、教訓もあった。長い目でみて、経験教訓を総括し、統治システムの弱点を急いで補わねばならない」

「あえて戦い、あえて勝利したことは、中国共産党人の鮮明なる政治品格であり、我々の政治優勢である!」などと、“金句(名言)”を連発したとか・・・。

 新華社配信の写真をみると、ブルーのN95マスクをつけた習近平は、自宅隔離されている武漢市民がマンションの上層階の窓から手を振るのをにこやかに見上げて、手を振り返していた。どうやら、罵声は浴びなかったらしい。解放軍がオペレーションする火神山医院を視察したり、スクリーン越しに患者や現場の医師と交流、地域のボランティアや警官との座談会に参加したりと、満足のいく政治パフォーマンスをやり遂げたようだ。