新卒一括採用、終身雇用、年功序列などをベースとする従来の日本型雇用システムでは、めまぐるしく変化するビジネス環境に対応することは困難ではないのか ── そんな危機感から、一般社団法人 日本経済団体連合会(以下、経団連)は、「2020年版経営労働政策特別委員会報告」にて、日本型雇用システムからの転換を、個々の企業が状況に応じて徐々に進めていくことを提言している。もはや不可避なものとなりつつある雇用スタイルの変化、多様化について解説する。

『ジョブ型』に代表される新たな雇用スタイルが広がる

 めまぐるしく移り変わる技術革新の波にさらされて、ビジネス環境は日々急速に変化している。特に昨今はデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、事態がより予測不可能となる中、昨日まであった産業や仕事がいきなりなくなったり、これまでになかった産業や仕事が一気に増えたり、といったことも当たり前だ。また、働く人が想像もしていなかった職務に配置転換されることも増えている。こうした状況に、戦後の持続的な経済成長を前提とした従来の日本型雇用システムで対応することは困難だという考えが広まっている。

 経団連の中西宏明会長は、2019年5月の定例記者会見において「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい」と発言し、新たな雇用システムの必要性を訴えている(※1)。

 そこで注目され始めているのが『ジョブ型』の採用・雇用だ。従来の日本型雇用システムの特徴は「メンバーシップ型」と呼ばれ、特に大手企業の新卒一括採用の場合、職に就くというよりはその企業の一員となる、つまり「就社」という面が強かった。企業の社員の多くは「総合職」であり、一部の専門的な職に限定して雇用される社員を「専門職」と呼んで両者を区別していた。これに対して、欧米の主要企業で行われている『ジョブ型』の雇用システムは、職務を限定した「専門職」の社員が中心となり、採用時にも職務を明確にして雇用を決定している。

 これまで日本の大手企業は、新卒採用を中心に、主に総合職での雇用=メンバーシップ型雇用を行ってきたのだが、その企業の置かれた状況に応じながらジョブ型採用・雇用を広げていくべし、というのが経団連の主張である。

 こうした動きは、日本企業のなかでもしばらく前から登場している。ソニーは2012年から職種コース別採用を実施している。最近ではKDDIが2020年新卒から『ジョブ型』の採用をスタートさせ、2021年新卒ではその枠をさらに拡大する方針を発表した。このように広まりを見せつつあるが、日本でジョブ型採用・雇用を開始している企業でも、現時点では一部の職種だけで行っているところが圧倒的に多い。

 処遇については、一般的に『ジョブ型』では職務内容、能力・スキルによって決められるため、「新卒だから一律」ではなく、職種ごと、個人ごとに差が生じることになる。たとえばNTTデータは、専門性の高い人材を厚遇で採用するADP(Advanced Professional)制度を新設。また、NECは新卒社員(研究職)に年収1,000万円以上を支払えるよう給与制度を改正している。

 また、以前から『限定正社員』(※2)という雇用スタイルも広がっている。こちらも職種や仕事内容を限定したうえで働くことに変わりはないが、むしろ勤務地の限定、勤務時間の制限、残業の可否などが重視されている。子育てや介護などにより「転勤も長時間労働も避けたい」という事情を抱える人には働きやすい雇用スタイルである。

 そのほか、アプリケーション開発の現場などでは、プロジェクトごとに必要な人材を集めるという手法も浸透しつつある。ただしこちらは『ジョブ型』雇用とは異なり、個人事業主(フリーランス)との業務委託契約となることが多い。ほかには、副業・兼業を容認する企業の増加や、手が空いている時に短時間で済む仕事を担う『ギグワーカー』の存在なども、昨今注目を浴びている。労働力不足や価値観の多様化にともない、雇用スタイルや働き方もまた、今後ますます多様化していくことになりそうだ。

【参考】
※1 経団連:定例記者会見における中西会長発言要旨
※2 限定正社員

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HRプロ編集部

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