シニア社員の何が問題なのか

 別の研修会社の方からも、「おたくのシニアはどうですか? 昭和生まれの方ばかりだと、イノベーションは起きませんよね」と言われました。たしかに、なぜか「シニア」社員からはイノベーションを感じるイメージがありません。片や優秀な20代社員を見ると、つい「会社を変えてくれそう」という期待感が湧いてきます。しかし社内の50代社員の様子を見てみると、それなりに楽しくやりがいをもって働いているように見えます。

 実際に話を聞いてみると、ある50代社員がこんなことを打ち明けてくれました。「楽しく仕事をしているし、本当はもっとやりたいこともある。でも50代になると、現実的に体力や気力、健康面で、若いころよりもできなくなることがたくさん出てくる」ということでした。

「シニア」活性化の文脈では、あたかもシニア社員自体が問題かのように語られます。しかしどうやら実際には、シニア社員ではなく、会社側が年齢と体力に考慮した仕事の与え方をしていないことが問題のようです。体力が低下してきたシニア社員に対して、20代や30代の社員と同じ役割や成果を期待するべきではないのです。それよりも、経験や知識を活かした仕事へアサインすることが重要なのではないでしょうか。

年齢なんて関係なく、それぞれが持つ知識を活かせばいい

 50代の先輩社員は相談を持ち掛けると、熱心に指導してくれます。特に会社の歴史や仕事の進め方について話を聞いてみると、たくさんの示唆をいただきます。一方で、たしかに50代社員はITスキルや現代社会への理解に関してアップデートしていただく必要があると感じる瞬間も多々あります。

 しかし、高齢社員のアップデートの必要性は、いつの時代も話題になってきました。昔から若者たちの間では「年寄りに若者の気持ちはわからないよね」と言われてきたように思います。逆にシニアは、いつの時代も「最近の若いもんはけしからん」と思ってきたのではないでしょうか。

 50代社員に対しては、経験や知識を敬いつつ、ITなど新しい知識の習得を支援すると意外と素直に受け入れてくれます。このことからも、年齢だけが問題ではないように感じています。例えば、20代でも仕事をサボっている社員はいますし、30代でも会社にしがみついている社員はいるでしょう。しかしなぜか「シニア」だけが問題になります。定年が近い「シニア」には未来がないから、という前提が当たり前のようにまかり通っています。

 しかし高齢化が急速に進むいま、20代や30代よりも50代以上が圧倒的なマジョリティになります。加えて日本は人口がどんどん減少していきます。このような時代では、若い人材だけにこだわっていると、経済活動を維持することができなくなってしまいます。だからこそこれからは、年齢に関係なく、それぞれが持っている知識やスキルを活かした働き方が重要になるでしょう。

 定年も段階的に引き上げられ、元気に活躍する60代や70代も増えてくるはずです。「未来がない」はずの「シニア」社員にも、あと10~20年は活躍してもらわなければなりません。年齢に関係ない人材活用の仕組みがこれから整えば、日本から「シニア」という言葉が消える日がいつか来るかもしれません。

【参考】
リサーチ・アンド・ディベロップメント社:75才でようやく自他共に“シニア”

著者プロフィール

中野 在人

大手上場メーカーの現役人事担当者。

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。

個人で転職メディア「転キャリ」を運営中 http://careeruptenshoku.com/
他に不定期更新で人事系ブログも運営。http://hrgate.jp/