c. スモールスタート、そしてQuick Winを目指す
ゴールや指標は性質上、進化するものですから、小さく始めること、そして早く失敗して、そこからの学びをすぐに生かすことを推奨します。「ゴールと指標を議論しつくしてから、取得すべきデータを定義したうえできれいに整備してからPAを始めたい」という声も聞きますが、ゴールや指標は変化するもので、変化にともなって取得すべきデータも変わります。データが完璧にきれいに整うのを待っていては何ヵ月も、場合によっては何年も経ってしまいます。ですから、まずは今使える手持ちのデータや材料から順番に示唆を積み上げていく方が、より実効性が高いでしょう。
これに合わせて意識的に設計したいのが 「Quick Win(小さな勝利)」です。人事に限らず、どのようなジャンルの施策に対しても言えることですが、効果が現れるまでに時間を要するようなプロジェクトでは、着実に前進していることが分かりやすく可視化できないと、モチベーションや期待値の低下を引き起こしかねません。
例えば、「面接回数を闇雲に増やしても採用の質は飽和することが分かったので、これまで平均7回だったのを一律4回に減らし、面接官の面接業務時間を40%以上削減した」というように、収益や生産性に直結するインパクトが分かりやすく効果として現れるものであれば御の字です。「エンゲージメントサーベイにより従業員満足度を低下させている23個の小項目を特定したが、特に1年以内の離職率に起因している2つの項目に対してのみ有用性の高い3つの改善案を実行した」といった小さなアクションの変化でも、立派な Quick Win といえるでしょう。
繰り返しになりますが、データ分析における勝利=成功とは、「経営や現場にとって役に立ったかどうか」、「意思決定の質が向上したか」であり、つまりは「既存の非効率な業務や不合理な慣行が、より価値のあるものに是正された」といえるでしょう。
終わりに
PAをスモールスタートで推進することのアップサイドとして、「可視化されるほど、何が分かっていないのかが分かるようになった」、「あとで分析に役立てられるように、ちゃんとデータ入力をしようと意識が変わった」、「単純な比較だけで、自組織の状態を客観的に評価でき、これまでいかにバイアスにまみれていたかを自覚した」といった声が、人事・現場の双方から聞かれます。こうした小さな態度変容の積み重ねが、やがて大きな行動変革をもたらします。是非ともライトに、ただし「課題を乗り越えるポイント」には留意しつつ、 PA に取り組み始める企業が増えれば幸いに思います。
《前編》ピープル・アナリティクス = 人財のための財務諸表【2】(2019.12.23)
著者プロフィール
パナリットは既存の人事システムやデータファイルに連携するだけで、企業に眠る人データを活用し課題の本質へと導く “組織の人間ドック”です。
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