学生の意思を介在させない、採用現場で横行する「大人たちのルール」

 ただし、問題の根本は学生たちにあるのではなく、我々大人たちの責任です。社会に出たらあまり役立たない内容でカリキュラムを組む大学や、学生を人ではなく「数」としか見ていない企業に大きな問題があるのです。

 先日のニュースで、リクルートが学生たちから承諾を得ずに「内定辞退率」の予測データを販売していたことが報じられました。報道に端を発し、トヨタやホンダなどの日本を代表する大企業に行政指導が入る事態にも発展しました。これは、日本の採用活動における素地をつくってきた大企業とリクルートの「横暴」を象徴するような出来事だと私は感じました。

 採用活動では、例えば「今年は100人の学生を採用しよう」といった目標値が設定されています。どんな人を採用したのかという中身よりも、目標の人数を達成することが採用担当者の目的になっている場合がほとんどです。こうした環境にある企業では、学生の内定辞退による採用数減少は人事担当者の評価に響くことでしょう。 
 
 今までの一括採用にしても、今後の通年採用化にしても、採用される学生側の意思は企業側の採用活動に全く介在していません。これが大きな問題です。学生の知らないところで、企業と大学の大人たちが「ルール」を決め、学生を数として扱って採用を進めています。
 
 企業は時代が大きく変わっていることを、改めて、強く認識しなければなりません。もはや、企業や採用支援会社が採用活動を主導する時代は終わりました。主役は学生です。これからは学生のニーズを常に把握し、どのようにすれば学生が入社したいと思う「選ばれる」会社になるのかを考えなければなりません。また、自社に必要な人材はどんなスキルがあって、どのような素養がある人材なのかを見極め、適材適所の採用をしなければ、学生は入社しても数年で離職するでしょう。今こそ企業は「数」としてではなく「人」としての学生ときちんと向き合うべきです。新卒採用の現場では、学生と二人三脚になれる企業がこれから生き残っていくでしょう。

著者プロフィール
 

中野 在人

東証一部上場大手メーカーの現役人事担当者。
 

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。
 

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。
 

個人でHRメディア「HR GATE」を運営中。
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