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 経団連は昨年4月、新卒学生の通年採用を拡大することで大学側と合意しました。これにより、留学や社会活動などで休学していた学生にも採用の門戸が開かれることになりました。一方、企業側では、優秀な学生を巡る採用の激化と長期化が想定されています。また、大学側ではより一層のキャリア教育や専門教育を学生に施す必要性が高まるでしょう。新卒通年採用化はこれからの日本をどのように変えていくのでしょうか。人事の視点から通年採用の拡大を振り返ります。

 新卒生の通年採用化で日本企業はどうなったのか

 2019年4月、経団連が新卒通年採用を拡大する方針を打ち出しました。その後、採用の現場はどう変わったのでしょうか。

 私の周辺では、採用関係のベンチャーから「通年採用化で御社はどうするんですか⁉」という鬼気迫った営業の電話がかかってくることが増えました。最近、こうした威勢のいい売り込みが後を絶ちません。そんなことを急に電話で言われても答えようがない、というのが本音です。なんとも苦い思いで電話を切ることがよくあります。というのも、採用の現場はほとんど変わっていないからです。「通年採用化だ! ヤバいぞ‼」と心底対応に苦慮している企業は少ないでしょう。通年採用の拡大が始まっても、採用手法はいまだに「リクナビ」などの大手メディアとインターンシップが主流だからです。

 そのような中、例えばソフトバンクでは2017年からいち早く通年採用を導入しています。外資系企業も通年採用をおこなっている企業がほとんどです。つまり、通年採用化の流れに敏感な企業やグローバル企業では、数年前からすでに始まっていたのです。しかし、中堅企業や中小企業では対応が遅れている企業もあります。特に知名度が高くない企業はなかなか採用ができず、苦戦を強いられています。ただ、これも通年採用化が始まったからではなく、以前から知名度を上げる努力をしてこなかったというだけです。つまり、通年採用化の影響が明確化してくるのは、まだまだこれからなのです。

そもそも「新卒」は必要か。「新卒不要論」噴出の原因とは

 学生の採用応募機会が増えた一方で、学生の数自体の減少により多くの企業ではなかなか思うような採用ができていません。なるべく早く優秀な学生を捕まえて、自社に入ってもらいたいというのが企業のホンネです。そうなると、一括採用をやめてインターンシップで囲い込んだ学生をどんどん取り込む手法が有効です。ただし、これには資金力や人員など、企業側の体力が必要です。はっきり言って、新卒通年採用化は大企業に有利な方法です。体力のない中堅企業や中小企業は学生に手を出しづらくなるでしょう。そのため、新方針が定着する以前に、企業側には「新卒採用不要論」を唱える会社も出始めています。

 企業側からすると新卒学生はコストをかけて採用した割に、即戦力になるわけでもなく、むしろ育成する手間もかけなければなりません。そして、手塩にかけて育てても3年ほどで3割程度が離職してしまいます。正直なところ、新卒を採用するのは「割に合わない」ことなのです。こんな話をすると、応募する側からは「企業はなんて冷たいんだ」と思われてしまうかもしれませんが、企業側だけがその責めを負うべきではないでしょう。

 以前、某自動車メーカーの有名エンジニアの方にお目にかかった際、こんな話をうかがいました。「日本は、このままではドイツに負ける」。ドイツ人は、学生のうちから自分自身のキャリアについて考えます。特に技術系の学生は卒業前から企業のインターンやアルバイトで技術を実践的に学び、卒業する時には一人前のエンジニアになっています。一方、日本の大学生は、大学に入れたらあとは遊んでばかりいます。技術面で考えると、日本では、高専生や専門学校生の方が大学生よりもよほど優秀です。このような傾向があるせいで、「大学で遊びほうけて、社会で役立つスキルを身につける努力を怠った新卒学生は本当に必要なのか」という議論が出てきてしまうのです。