しかし、「不眠、不眠」といったところで、育児経験のない方は、女性であっても理解が難しいようだ。出産を間近に控えた女性でも、ピンと来ないらしい。では、なぜ不眠に陥るのだろうか。
「我慢比べ」の子育てでは状況は改善しない
私が考えるに、二つ理由がある。すでに指摘した3時間おきの授乳と、もうひとつ、「か弱き命をつなぐ」ことの緊張感だ。
出産前に、3時間おきの授乳が必要だと聞いても、なんとかなるだろう、と考える人は意外と多いようだ。「授乳の準備と後片付けで1時間潰れるとしても2時間は眠れる。仮に3時間のうち1時間しか眠れないとしても1日に8サイクルだから、合計8時間は眠れる。余裕余裕!」と考えてしまうようだ。
ところが実態は甘くない。赤ちゃんは生まれたてだと、おっぱいを飲むのがヘタ。吸う力も強くないのですぐに疲れてしまい、寝てしまう。しかし母乳を飲めていないからすぐおなかがすく。3時間おきどころか、1時間おきに泣き、そのつど授乳しなければならないことも多い。
また、母乳やミルクの摂取量が少ないために、体重がみるみる減っていく。「このまま衰弱して死んでしまうのでは?!」と、母親は不安に襲われ、出産を経て肉体がボロボロの状態にもかかわらず、必死になって授乳しようとする。
赤ちゃんの体重が減ることはよくあることなのだが、何しろ赤ちゃんはか弱き存在。このままだと死んでしまうのではないか、と不安になった母親は、おちおち眠っていられなくなる。赤ちゃんがスヤスヤ静かに眠っていると、呼吸をしているのかどうか不安になり、寝息を確認してホッとする、ということを繰り返す。突然呼吸をしなくなったら、という不安が強くて、眠れない。そして頻繁に泣く赤ちゃん。重い体を起こして授乳。しかしまた、飲むのに疲れてすぐ寝てしまう赤ちゃん。もっと母乳やミルクを飲んでよ、そしたらこんなに頻繁に起きずに済むのに、という思い、それとは裏腹に、寝ていたら寝ていたで静か過ぎて、息をしているだろうかと確認せずにいられない不安。この結果、熟睡することが非常に難しくなる。こうした緊張は、首がすわり始める生後3カ月後くらいまで続く。
首がすわり始めるまでの赤ちゃんはあまりにか弱く、誰かしらの「目」が24時間必要となる。か弱き命をつながねば、という緊張感を24時間保つことは、たった一人では担いきれない。分担し、一人に負担が集中することを回避しなければ、この時期をうまく克服することは難しい。