世の中のトレンドには総論は賛成、各論では反対が基本

 この数年、HR分野の話題は、誰もが「歓迎」な話ばかりです。働き方改革、転職、副業、採用強化など、社会背景を考えればこれらのテーマに対してNOという人はいないでしょう。しかし、人事担当者としてはこれらのテーマに全て賛成とは言い難い現状があります。世の中のトレンドは確かにあるけれども、自社はどうするのか、それを考えるのが人事の仕事だからです。例えば、よく人事の友人との間で「Googleのような職場をつくりたいよね!」という話がでます。Googleの例が出るときの根底にあるイメージは、たいてい働きやすくて、やりがいもあって、どんどん良い人材が入ってくるような職場です。確かにGoogleと自社を比べると人事としてまだまだやるべきことはあります。でも、たいていの会社はGoogleたり得ません。Googleのような働き方を自分の所属する会社で実現したとしても、それが自社の風土や事業環境に合うかどうかは別問題なのです。

 人事は、外部環境の変化や世の中のトレンドを受け入れる必要がある反面、冷静に自社にとって今、何が問題なのかを見極めることが求められます。人事制度はすべての社員に影響を及ぼすため、簡単には変えられません。世の中のバズワードに振り回されて人事制度をコロコロ変えてしまうと、社員の人生を激変させてしまう可能性があります。時流に流されず、自社の風土、事業の方向性、社員への影響など総合的に考えたうえで社にとってベストな選択を判断するのが人事の役目です。

人事は法律とともにある

 人事制度は日本の法律に基づいて作られています。労働基準法はもちろん、様々な法改正に対応する必要があります。人事の仕事は法律と隣り合わせなのです。

 日本の人事制度は「制度疲労」を起こしつつあります。法律にも多分に問題があると思いますが、一介の人事が変えられるものではありません。

 最近、あるベンチャー企業のマーケティング調査でヒアリングを受けました。欧米では一般的な人事の仕組みを日本に取り入れるサービスでした。とても良いサービスでしたが、一つ残念な点がありました。欧米と日本の人事制度の違いを考慮していなかったことです。当然ながら欧米と日本では労働法が全くことなります。いくら転職市場が活性化してきたといえども、まだまだ日本企業は職務制より職能制が中心です。外資系企業であっても、基本的には日本の労働法を遵守しています。私は仕事柄たくさんのHR系ベンチャーやベンダーから営業を受けますが、日本の人事制度の成り立ちや法律を理解されていないのが残念だなと感じるシーンが多々あります。人事に限らずHR分野の仕事に携わるなら、最低でも人事制度や法律の成り立ちについて勉強するべきでしょう。

 人事は多くの関係者との間で常に板挟み状態にある仕事です。常に経営陣と社員の両方のリクエストにこたえる必要があります。

 そのような中で時には会社を良くするために経営陣に対して迫る勇気を振り絞る必要もありますし、法律改正などコントロールできないことを受け入れる必要があります。変えられるもの、変えられないものを考えながら自社の成長に貢献するのが人事の仕事なのです。

 今回は人事の基本的な物事の考え方や視点をご紹介しました。次回以降も人事の視点から様々なテーマをご紹介します。ぜひ引き続きお付き合いください。