(文:フォーサイト編集部)
株式会社ゲンロン(東京・五反田)主催のもと9月18日に行われた、小泉悠氏と真野森作氏によるトークイベント「ロシアにとって国境とはなにか:ウクライナから北方領土まで」から一部を再録してお届けする。
ウクライナ危機の勃発から5年、政府と親露派の対立が続く東部ドネツク、ルガンスク両州で、再び「停戦」に向けた動きが見えてきた。
10月1日、双方の代表者が、停戦とともに親露派の地域に「特別な地位」を付与することで基本合意。29日に兵力の引き離しが始まった。もっとも、たとえ停戦合意が結ばれたとしても、前回と同様、有名無実化する可能性もゼロとは言えない。
2013年11月、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権が欧州連合(EU)との連合協定を見送ったことに端を発したウクライナ危機は、政権崩壊、クリミア編入、東部2州の「独立宣言」、マレーシア航空機撃墜事件を経て泥沼化。東部2州では2015年2月に停戦合意が結ばれたものの、すぐに戦闘が再燃し、今に至っている。
今年5月、「和平」を公約に掲げるウォロディミル・ゼレンスキー氏がペトロ・ポロシェンコ氏から大統領の任を引き継いだが、その道のりは険しい。
一体、ウクライナ危機とは何だったのか。この問題を2つの方向から解き明かしてくれるのが、ロシア軍事の専門家・小泉悠氏の近著『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)と毎日新聞元モスクワ特派員・真野森作氏の『ルポ プーチンの戦争』(筑摩書房)だ。
ロシアにとってのウクライナという存在を「勢力圏」や「大国志向」という概念から分析する理論的アプローチを取るのが前者なら、実際にクリミアや東部2州の現場で「生のウクライナ」を捉えたのが後者である。
覆面の民兵が銃口を・・・
真野 私はウクライナにおける2014年を、村上春樹さんの『1Q84』になぞらえて「2Q14」と表現しています。
『1Q84』は1984年から月が2つある世界に行ってしまうお話ですが、ウクライナとロシアも2014年で世界がガラッと変わってしまった。普通の2014年ではなくなってしまい、クリミアで終わらずウクライナ東部紛争、さらにマレーシア機撃墜事件と続き、大きな転機、それも不可逆的な転機となった。
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