グローバル企業が景気のボトムで人を切らず、その手前または事後にタイミングをずらそうとするのにはもっと深い理由がある。それは何か?
その方が辞めた人間が次の仕事を見つけやすいのだ。そうすると、会社も訴訟を起こされにくい。社員にも、企業にも合理的なのだ。
そんなからくりを体感してからは、日本企業の経営者が「最後まで頑張りました。もう無理なんです」と言って、景気のボトムに数千名の社員を放り出すことが、理解できなくなった。本当の優しさはもっと合理的な判断から生まれるのではないか。
もちろんこれは白黒の話ではない。日系的なグローバル企業もあれば、外資的な日系企業もある。人財カットの話を例示したのは、それぞれの企業行動の違いと深層にある理由を、今一度「冷静に」考えてほしいからだ。
私はグローバル企業に日本的人事を持ち込み成功した。ポイントは二点。
一つは、「努力している人間は短期的実績が悪くてもすぐに切らない」と経営の基準を定めたこと。欧州の人気企業など、みな辞めたがらないから生涯一企業に勤める人財も少なくないと友人に聞いた。一方で雇用カットは粛々と行われていくのだ。努力を大切にする、それは実は国籍を問わずとても大事なメッセージなのだ。
もう一つは、人事部の強化だ。小さな組織でもトップになれば情報が上がりにくくなる。また経営への批判も届きにくいものだ。人事部に信頼できる人財を登用したことで、より公平な目で努力の程度と実績を評価できる仕組みを作れた。
ピンチがチャンスに代わるメカニズム
終身雇用制度の崩壊と一口にいっても、人によって思い浮かべるものは様々である。よくメディアで報道されるように、ある朝、出社してみれば席がないというのはもっともドラスティックなパターンだ。しかしグローバルビジネスの現場で働いて長い私でも、このようなパターンはいままで一度も目にしたことがない。クビを切るのに、指導を繰り返して三年間様子を見ようというのが基本線だった。つまり制度変革は1か0かの世界ではないということだ。いま日本企業がなすべきは、「自社の文化」と、「グローバルな環境変化ニーズ」のブレンド比率を定めることだ。
終身雇用制度を放棄した世界の企業の唯一の共通項は、納得いかない人財の雇用を切るという「選択肢」を得たということである。