人事評価の導入・普及を推進するために必要なこととは
2019年4月、岩本教授は同レポートの『Vol.2』を発表、人事評価制度をより普及させるために2つの施策を提言している。
1つ目が「賃金決定方法の開示を就業規則に明文化する法改正を行う」というものだ。いわゆる「同一労働同一賃金の原則」に関する厚生労働省のガイドラインでは、正社員と非正規社員の間に賃金の決定基準の相違がある場合、それは「職務内容などの客観的・具体的な実態に照らして、不合理なものであってはならない」としている。また労働基準法では就業規則に賃金規定を記載することが義務化されているものの、賃金の決定方法・計算方法については具体的に記載する義務はなく、従業員が自身の給与の妥当性を客観的に判断できない状況にある点を同レポートは問題視している。
こうしたことから、各企業が、労使間の合意に基づき、職種ごとの賃金規定を社内で公開することが重要であり、「客観性を担保した正しい賃金規定の運用実現には、人材を正しく評価する体制づくりとしての人事評価制度が必要」、「賃金決定方法の開示を就業規則に明文化する法改正を行うべき」だとレポートは述べるのだ。
人事評価制度導入/賃金決定方法開示の結果、業績の改善に成功した事例もレポートでは紹介している。例えば、沖縄県の注文住宅メーカー、株式会社ユートピア設計ネットワーク。過去、この企業には評価制度や昇給規程がなく、昇給の見送りが原因で離職も発生していたという。だが2015年、人事評価制度と組織体制を整備したことで一変。評価に必要な行動目標の設定を明確化することで会社の課題が浮き彫りになった、部門間の連携が円滑になった、中間管理職に権限を移譲することで企業としての対応の幅が広くなった……など、社内の状況が好転し、生産性が大幅に向上したそうだ。実際に売上げや給与が毎年伸び、2017年には退職者ゼロを実現したという業績推移データも掲載されている。
提言の2つ目は「人事評価制度導入による賃上げ税制のインセンティブを用意すべき」というもの。
レポートによると、人事評価制度を導入している中小企業75社において1.5%の昇給を確認したという。これは「中小企業においては、継続雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加した場合、給与総額の前年度比増加額の15%を法人税から税額控除できる」とする所得拡大促進税制の控除要件を満たす数字だ。
またレポートではIT導入補助金を利用して人事評価システム整備を通じて制度の整備を行った中小企業47社のデータも調査。人事評価制度導入後の方が同一の労働量に対する粗利が大きくなっており、「より効率的な経営が行われていると考えられる」としている。
こうした点を理由に、人事評価制度を導入することで一定の成果を上げた企業には、金銭面での優遇措置や負担軽減、助成金の支援拡充、さらなる控除・減税の積み上げといったインセンティブを用意し、人事評価制度の普及を図ろうというわけである。