AIと雇用の関係は次のフェーズへと進んでいる

 こうした状況の中、前述の「雇用の未来」セミナーにおいて、オズボーン氏や石山氏らは、今後必要となる人材について次のように述べている。いわく「社会的な課題の中身を理解し、その解決のために必要なデータは何か、データをAIで分析することで可能になることは何かを見渡し、戦略から仕組み、プロダクトまで、全体をデザインできる能力が必要。各種プロジェクトは他分野とコラボしながら進められるため、多彩な人材をモチベートし、統合する力も必須」。いわば“AIジェネラリスト”とでも呼ぶべき人物・能力が求められているのだ。

 官民の双方で、こうした人材を育成するための試みも始まっている。例えば経済産業省は、AIやデータサイエンスに関する専門的・実践的な教育訓練講座を普及させるための「第四次産業革命スキル習得講座認定制度』に取り組むほか、ビッグデータから国立公園の観光宿泊者数を予測するコンテストを実施。総務省はオンライン講座「社会人のためのデータサイエンス演習』を開講し、文部科学省もデータ関連人材育成プログラム「D-DRIVE」を進めている。

 また株式会社マイナビは、AI開発/データサイエンティスト人材採用/育成サービスを提供する株式会社SIGNATEと共同で「マイナビ×SIGNATE Student Cup 2018』を開催。これは、各種データからJリーグの観客動員数を予測するというコンテストで、次世代を担うデータサイエンティスト発掘・育成を目的とした、学生のためのコンペティション型インターンシップになる。

 AIの発達によってもたらされる未来像を短絡的に捉えると「自分の仕事が奪われる」などと恐怖心を抱いてしまうかもしれない。また「既存の仕事をAIに置き換えることによる効率化」や「ビッグデータ収集・利用に後れを取ることのリスク」を考え、手を打とうとする経営者も多いだろう。だが現実は、その先を行っている。AIによって解決しうる社会的課題、新たに生まれるビジネスチャンスと雇用にまで目を向け、次の時代に必要な人材の確保・育成まで考慮すべきだ。AIと雇用の関係は、そんなフェーズへと既に突入しているのである。

 

HR Trend Lab所長・土屋 裕介 氏のコメント

 HR領域においても、AIは様々なサービスに活用され始めています。たとえば、タレントマネジメントシステムにAIを組み込むことで最適な人材配置をレコメンドする、一定期間ごとに実施するサーベイ(パルスサーベイ)の結果をAIが分析して離職予測のアラートを出すなど、活用が広がっています。

 上記のような方法を含め、AIをはじめとしたテクノロジーを有効に使っていくことで、経営戦略と人事機能の連携を強めた戦略的人事の実現に繋げる事ができるでしょう。ここで忘れてならないのが、HR領域に特化したテクノロジーを使いこなせるプロフェッショナル人材へのニーズも高まると考えられることです。昨今では、シンギュラリティがもたらす2045年問題が議論されていますが、テクノロジーの活用を積極的に進めるなら、それを使いこなす人材の確保や育成もセットで考える事が重要です。

土屋 裕介 氏
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長/HR Trend Lab所長

国内大手コンサルタント会社で人材開発・組織開発の企画営業を担当し、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入した後、株式会社マイナビ入社。研修サービスの開発、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営などに従事し、2014年にリリースした「新入社員研修ムビケーション」は日本HRチャレンジ大賞を受賞した。現在は教育研修事業部 開発部部長。またHR Trend Lab所長および日本人材マネジメント協会の執行役員、日本エンゲージメント協会の副代表理事も務める。