しかしデンスス88によるテロの事前摘発は依然として続いており、3月12日にはスマトラ島北部シボルガで爆弾製造中だったJADのメンバーとみられる男性を逮捕したほか、5月17日には折からの大統領選挙投票日に合わせてテロを計画していたJAD関係者ら29人を逮捕している。さらに6月29日にはJIの幹部で重要指名手配していた容疑者を逮捕。7月3日には同じくJIの財務担当者とみられる幹部を内定捜査で逮捕している。
このように治安当局の懸命の捜査と摘発でテロ発生が未然に予防されているのが現状といえ、こうした状況にさらにIS元戦士らを迎えることが「インドネシアの治安維持」にどう影響してくるのか、政府と治安組織の間で議論が続いているのだ。
加えて、1月27日にフィリピン南部スールー州の州都ホロのキリスト教会を標的にした連続自爆テロが発生し、捜査当局は実行犯がインドネシア人夫妻であることを確認しているように、近隣国でテロ事件にインドネシア人が関与するような事件や中東から東南アジアへシフトしたとみられるテロ組織の新たなネットワークへの対応も迫られている現状もある。
難しい判断迫られる大統領
6月末から約2週間、イラク、シリア当局者と協議を重ね、なおかつ現地で収容されているインドネシア人IS関係者と面談してきた対テロ庁担当者は帰国後地元メディアに対して「現地での司法手続きがあり、希望しても誰もがインドネシアに帰還できるわけではない」として重ねて現地での司法手続きが優先されることを強調した。
そしてすでにイラクでISに関与した罪で禁固15年の有罪判決を言い渡されたインドネシア人女性が2人いることを明らかにした。
担当者はイラク、シリアで面談したインドネシア人のインドネシア旅券の有無の確認や個人情報とともにIS内部での役割、テロ事件への関与などの詳細についても情報収集したという。
こうした情報を基に政府は治安当局と密接な協議を重ねて、帰還するIS関係者の選定、帰還時期、帰還後の処遇などについて現在詰めの協議を行っている。
最終的な判断はジョコ・ウィドド大統領に委ねられることになる。4月の大統領選で勝利して次の5年間の政権維持が確定しているジョコ氏だが、今後は国民の88%と圧倒的多数を占めるイスラム教徒の意向を考慮しながら、一方で対テロ対策や治安情勢への影響も斟酌していくという難しい判断を迫られることになるだろう。