真の率先垂範とは、

1.「人の嫌がりそうなこと」をいとわず、むしろ進んで行うこと。

2.技術的見本ではなく、普通なら嫌がりそうなことを、むしろ楽しむかのように行う「心構え」の見本を見せること。

3.部下と能力で張り合うのではなく、「こんなしんどいことをさせて申し訳ない」と、感謝する気持ちで見守ること。

4.部下の能力、がんばりを素直に承認し、たたえること。

という条件が揃っているのではないだろうか。

 部下に嫌がられる率先垂範は、「教えすぎ」と「能力自慢」だ。真の率先垂範と、嫌がられる率先垂範を、明確に区別しておく必要がある。

山本五十六の格言の続き

 山本五十六には、上述の言葉以外に、次の2つが続く。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

 上司となり、人の上に立つと、「部下たちから讃えられる自分」というイメージを抱きやすい。そして大概、上司になる人は、自分が部下だった時代、高い能力を発揮したという自信がある人だから、上司になっても、部下に負けない能力を示さなければ、と肩に力が入った人が多い。そこにさらに、「巨大組織に君臨し、万人を凌駕する高い能力を発揮する強いリーダー」みたいな、冒頭に示したリーダー像に魅せられていたなら、「俺も部下をアゴで動かせるほどの人間になりたい」と勘違いしてしまうかも知れない。

 しかし、部下から仰ぎ見られるリーダーと言うのは、技術的、能力的「手本」となろうとはせず、人の嫌がることに進んで取り組む「心構え」を持ち、なのに部下には「進んでやれ」とは言わず、「こんなことを命じてすまないね、私は好きでやっているから構わないが」という姿勢で臨み、もし部下が進んで取り組んでくれたら「ありがとう」と感謝する。そうした心構えのことを、「率先垂範」というのだろう。

 四文字だけだと、大事な情報が抜け落ちやすい。けれどそろそろ、勘違いされやすいこの言葉を、よりよく理解していきたいものだ。