もちろん、韓国はこのような日本の立場は認めないであろう。そもそも、「自分たちがすべて正しい」と主張する文在寅大統領の下では、日本の貿易制限措置として強く反発して来ることは必定であり、政治関係の悪化が経済関係、国民同士の関係に波及してくる可能性は排除できない。韓国の国民は「戦前日本は軍事力で韓国を支配した。戦後は経済力で韓国を痛めつけるのか」として、反日になる可能性がある。

今回の措置がなぜ必要だったか

 今回の措置の目的は、韓国にも日韓関係悪化の痛みを知ってもらおうということである。韓国の最近の歴史問題やレーダー照射問題など、日韓間の信頼関係を揺るがす行動は最早日本として看過できないところまで来ている。

 これまで日韓間で歴史問題等をめぐる葛藤があると、韓国の国民感情の激高を抑え、日韓関係を軌道に戻そうとして日本側が多く譲歩してきた。それだけ日韓関係は重要であり、いつまでも対立するのは望ましくないとの考えが背景にあった。また、数十年前までは日本は韓国を併合したのだから、韓国に対しては配慮する必要があるとの考えを抱く人も多くいた。

 日本が譲ってでも日韓関係を管理したことによって、韓国人一般の対日認識は大幅に改善した。他方で、韓国は「強く出れば日本は譲歩して来るだろう」との甘えを抱くようになってしまった。いや、より正確に言うのなら、韓国は「自分たちが正しい」と考えているから、「日本が譲歩した」というよりも「当然のこと」と受け止めているようである。

 今、日本人の対韓感情は最悪のところまで来ており、「韓国に譲歩すべきだ」という日本人は極めて少ない。これからは是々非々で、日本としても強く出ていかざるを得ないだろう。ただ、いきなり半導体材料の輸出規制という“劇薬”を持ち出してきたのは、最初から全面対決モードに入ったとの感も抱かせる。

対立しても、韓国の国民感情への配慮は重要

 文在寅政権の対日政策は、日本としてとても看過できるものではない。これに対しては相応の強い姿勢で臨まざるを得ない。他方、それによって韓国の一般の人の反日感情を呼び起こしてしまったら、文政権の反日政策を後押しすることになりかねない。そこで心掛けねばならないことは、文政権に対する強硬対応と、韓国の国民感情の高まりに対する抑制とを同時並行的に進めていくことだ。

 そうした視点で見れば、半導体の輸出規制を持ち出すタイミングについて、「今が適当なのか」という疑問は残る。

 大阪G20に出席するため日本を訪問した文在寅大統領に対し、安倍総理は8秒間の握手をしただけで会談は略式を含め拒否した。その文大統領が帰国するのを待つかのように規制強化を発表した。これに対し韓国の人々が「日本に裏切られた」との感情を抱いても不思議ではない。文氏の帰国翌日、この措置を発表するのならば、G20で首脳会談に応じ、韓国政府の対応が変わらないことを確認し、輸出規制の導入を通告しても良かったのかも知れない。

 また、韓国では経済官庁や財界が慌てているが、問題は文大統領がどう反応するかである。文大統領のこれまでの関心事項を見ると、北朝鮮べったりであり、今は6月30日の米朝首脳会談を受けこれから南北関係にどう臨もうかで頭がいっぱいになっているはずだ。日本の今回の措置、それを招いた韓国への怒りに、文大統領がどこまで気配りし対応するか心細い気がする。

トランプ大統領、金正恩氏と面会 北朝鮮側に足を踏み入れる

朝鮮半島の南北軍事境界線上にある板門店の韓国側で、韓国の文在寅大統領(中央)と対面する金正恩朝鮮労働党委員長(中央左)と、その様子を見つめるドナルド・トランプ米大統領(右、2019年6月30日撮影)。(c)Brendan Smialowski / AFP〔AFPBB News