料理人/未来食研究家の桑名広行(くわな・ひろゆき)氏。

 メニューを考案した料理人の桑名広行氏は「ふだん(地球上で)使える調味料が使えない点が一番苦労した」と語るが、試食すると塩味がよく利いていた。実は、塩味に使われた宇宙用調味料スペースソルト(SpaceSalt)は、人工培養肉の培養液から作られたもの。うま味成分も含まれるとか。

スペースフードX代表で、リアルテックファンド業務執行役グロースマネージャーの小正瑞季(こまさ・みずき)氏。

 だが、実際に「宇宙で食べ物を作るのは非常に大変」と、スペースフードX代表の小正瑞季氏は5つの課題を挙げる。その5つとは(1)現地で食材を調達する地産地消、(2)効率的に栄養素やエネルギーを摂取すること、(3)限られたリソースで調理する省力化・省人化、(4)ごみを出さず排泄物も活用する物質循環、(5)少ない食材で美味しく楽しく食べるQOL向上だ。

 これらの課題を、日本の強みを生かして解決できると始動したのがスペースフードXだ。具体的には、ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用大量培養技術を確立したユーグレナ(東京都港区)、人工培養肉の研究開発を進めるインテグリカルチャー(東京都新宿区)、日本宇宙食で実績のあるハウスや日清食品、 JAXAなど30以上の企業、大学、研究機関などが参画。今後1年かけてシナリオを検討し、国際宇宙ステーション(ISS)や月面での実証を行っていく計画だ。

 “月産月消”を実現するには、さまざまなテクノロジーが必須となる。月面ディナーが並ぶ食卓は、こんな機器類が取り囲んでいるかもしれない。

Space Food Xが描く2040年の月面の食卓。(提供:Space Food X)
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 肉は培養肉庫から、葉物は人工光植物細胞庫から。藻類培養タンクからお気に入りの藻類を選んでスープに。調理はアバターロボットと一緒に。ロボットは地上から家族が遠隔操作することも可能だ。栄養管理システムを備えた3Dプリンターが提案、調理してくれるメニューも献立に取り入れたい。食器は汚れが付かない再生素材を使うけれど、どうしても取れない汚れは超節水食洗器で。

 食材だけでなく、これら月面ディナーを実現するためのさまざまな調理器具類などの開発も進めていく。