日本の食の技術を宇宙の台所に

 スペースフードXには、東京理科大学スペース・コロニー研究センターも参画。同大特任副学長で宇宙飛行士・向井千秋氏は「月の食事の半分は地産地消を実現しないといけない。今の地上の技術なら十分できる」と言い、こう続けた。

宇宙飛行士/東京理科大学特任副学長兼スペース・コロニー研究センター長の向井千秋(むかい・ちあき)氏。

「1960年代のアポロ計画のように、宇宙開発用にフリーズドライなどの先端技術を開発し、地上にスピンオフさせる時代ではない。地上の技術を集めて宇宙に持って行った方が開発期間も短いし効率的。ただし、宇宙放射線や微小重力、耐久性など宇宙ならではの課題がある。それに対応させることで、地上の技術力が上がる。宇宙を目的にすることでイノベーションが進むんです」。

 ただし、月だけをターゲットにするのではなく、地球上に常に還元するという「デュアル開発」の視点が必須だと説く。地上ではフードロス問題、人口増加に伴う水やタンパク質不足、災害時の水・食料問題などさまざまな課題が山積している。月面の食料問題解決は、これら地球上の食料問題解決にもつながる。

 東京理科大学の研究で興味深いのは、光触媒などを活用した植物工場内の衛生管理だ。ユニークなのが水中プラズマ技術。水中に空気を送りながら電圧をかけると、水蒸気と空気がプラズマ状態になり、空中の窒素を取り込み肥料に使えるというもの。水耕栽培で肥料を運ぶ必要がなく、植物栽培の自動化につながる。

「地上で稲妻が光る場所は稲の発育がいいと言われます。それは空中でプラズマが出て窒素が雨に溶け込むから。これを宇宙で実現したい。ISSをテストベッドに使って、ゆくゆくは月面に持って行こうと思います」(向井氏)