(柳原三佳・ノンフィクション作家)
山口県の下関市と福岡県を結ぶ「下関北九州道路」の整備に関する発言をきっかけに、塚田一郎国土交通副大臣が辞任しました。いうまでもなく、山口県は安倍晋三首相の、そして福岡県は麻生太郎副総理・財務相の地元ですが、そのことをことさらに強調したうえで「忖度しました」とまで言い切ったとなれば、野党から「利益誘導だ」と批判を浴びても仕方がないでしょう。
ご本人は、「事実と異なる発言だった」とおっしゃっているようですのでこれ以上の言及は避けますが、一般論として、首相や国会議員に縁が深い地域や人物の私的利益のために、公職に就く人がその権力を乱用することは「汚職」にあたり、本来あってはならないことです。
維新直後、長州人脈の中から起こった大疑獄
さて、「汚職」の歴史をさかのぼってみると、明治の初期に兵部省(明治5年に陸軍省に改名)で、桁違いの、まさに「度肝を抜く」レベルの疑獄事件が起こっていました。近代日本初の大汚職事件ともいわれている「山城屋事件」です。
じつは、「開成をつくった男、佐野鼎(さのかなえ)」は、このとき、事件の舞台となった兵部省に籍を置いていました。そして、わずか2年余りで退官しています。その時期がちょうど「山城屋事件」と重なるのは興味深い事実です。