筆者が、福岡県更生保護就労支援事業所で最近支援した、ひとりの保護観察対象者の方は、知人に頼まれて、覚せい剤を「体内に隠して」入国を試みたために逮捕。営利犯(販売目的=営利のための覚せい剤所持)未遂で、長期間刑務所に服役していた。
「体内で、シャブ(覚せい剤)の袋が破けなくてよかったね。破けたら、マジであの世行ってたよ」と、筆者が言うと、「そうなんですよ。思い返すと恐ろしいことです。もう、絶対しません」とのこと。彼は、自分で覚せい剤を使用していた人ではないので、その言葉に偽りはないと思う。現在は、日々マジメに働き、雇用主の評判も良い。
この記事を書いている4月2日、同様の手口で覚せい剤を密輸しようとした台湾人が死亡したとの記事が毎日新聞に掲載された。
記事によると「台湾人の60代男性が東京都台東区のホテルの部屋で死亡しているのが見つかり、司法解剖の結果、体内から覚醒剤とみられる薬物が入った小袋約50袋が見つかった」とのこと。筆者の指摘を裏付ける悲劇である。
なぜ、このような危険を冒してまで、覚せい剤を日本国に入れようとするのか。読者の皆さんは不思議に思われると思うが、その答えは簡単「儲かるから」。海外の市場で覚せい剤を売っても、それほど利幅はない。しかし、日本の市場は、ハイリスクではあるもののハイリターンであり、間違いなく儲かるカタイ商品なのである。
数字で見るシャブの現在(いま)
近年の覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む)の検挙人員(特別司法警察員である麻薬取締官や海上保安官が検挙した者を含む)の推移をみると、平成13年以降は減少傾向にあったものの、平成18年以降はおおむね横ばいで推移し、毎年1万人を超える状況が続いている。もっとも、こうした数字は検挙された者を対象としているので、氷山の一角であることを念頭に置いていただきたい。
次に、再犯者に目を転じると、警察が検挙した覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む)の成人検挙人員のうち、同一罪名再犯者(前に覚せい剤取締法違反で検挙されたことがあり、再び同法違反で検挙された者)の人員及び同一罪名再犯者率(覚せい剤取締法違反の成人検挙人員に占める同一罪名再犯者の人員の比率)の推移は、近年上昇傾向にある。平成28年は65.8%であり、平成19年(57.1%)と比べて8.7ポイント上昇している。ウリ(覚せい剤の販売)も使用(自分に服用する)も、シャブで味をしめると、なかなか抜けられないようだ。
なお、平成28年に覚せい剤取締法違反により警察に検挙された者のうち、営利犯(販売目的)で検挙された者及び暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者)の各人員を違反態様別に見ると、同年の営利犯で検挙された者の比率は565人(5.4%)であり、その内、暴力団構成員等の比率は48.5%であった(平成29年版犯罪白書)。
これは、暴力団=覚せい剤という見方を肯定する数字である。ヤクザのシノギについて、山口組の顧問弁護士を務めた山之内幸夫氏は、ヤクザの間で、やってはいけない悪事とやっても良い悪事があるという点に言及している。
「窃盗、強盗などはやってはいけないシノギで、賭博、売春は本業、詐欺はやらない方が良いが、恐喝は比較的やっても良いとされる」(山之内幸夫『日本ヤクザ「絶滅の日」――元山口組顧問弁護士が見た極道の実態』徳間書店)。
山之内元弁護士は言及していないが、シャブは、ヤクザのシノギの中でもご法度の部類に入る。しかし、それはタテマエであり、実際はグレーゾーン。極道として「薬屋」と言われるのは恰好悪いが、不況時代の裏社会で確実に儲かるのがシャブをはじめとする麻薬ネタである。昨今は、ピエール瀧氏のコカイン事件が世間の耳目を集めたが、世の中には「シナモノ」と隠語で呼ばれるシャブ以外にも、大麻やコカイン、合成麻薬等、薬屋のシノギのネタは様々である。
ちなみに、昨今ではポンプ(注射器)も品薄であり、昭和の時代にみられたように、パケ(覚せい剤の小袋)買ったらポンプが1本もれなく付いてくるなどというサービスは無くなり、1本1000円から1500円で取引されている。