バッティング練習のボールを拾う栗山監督(筆者撮影9

 いよいよプロ野球が開幕する。

 清宮幸太郎の離脱などもあり、オープン戦最下位と結果を残せなかった北海道日本ハムファイターズだが、それでも高い評価を得ていることには間違いない。

 金子弌大や王柏融らの獲得など例年にない積極的な補強もさることながら、現役最長となる8年目を迎える栗山英樹監督の存在も大きいだろう。

 大谷翔平の二刀流をはじめ、いつだって常識を疑い、実行に移してきた指揮官。いかにして、チームを見ているのか。実際の「現場」での行動から探ってみたい。

石井裕也にかけた言葉

 練習を、遠くから眺めるのはいつものことなのだろう。

 就任以来、(多くはないが)何度か足を運んだキャンプやシーズン中の練習で、特にここ数年、栗山英樹監督が選手と近い場所――たとえばバッティングゲージの真裏、などに「とどまる」のをあまり見たことがない。

 この日は、外野だった。

 沖縄県国頭村で行われていたキャンプ最終日。10時50分から始まったバッティング練習を、栗山監督はライト、センター、レフトと、ほとんどフェンス際で眺めていた。ときに、転がってくる打球を拾っては、ボール拾いを手伝ってくれている地元の子たちへと投げ渡す。彼らと言葉を交わすシーンもあった。

 もちろん、チームとコミュニケーションを取らないわけではない。

 LiveBPが始まれば(この日マウンドに上がったのは斎藤佑樹だった)、コーチ陣となにやら神妙に話し込む。あとで聞けば、打順について話し合っていたそうだ。また練習中には、野手では西川遥輝と、投手では宮西尚生と数分、ときに笑顔を交えながら言葉を交わす。

 こんなシーンもあった。

 練習開始から1時間が過ぎ、打撃練習も7~8割がた消化したころのこと。ショートとレフトの中間あたりにいた栗山監督がおもむろに歩き出す。視線の先には、バッティングピッチャーの役目を終え、ボール拾いをするために外野へと向かう石井裕也がいた。そして、すれ違いざまに声を掛ける。一言、一言がわかりやすいように、大きく口を広げて。

「石井ちゃん、ナイスキャンプ。ありがとう」

 自分自身に向かってきているとは気づかなかったのか、一瞬驚いた素振りを見せた石井裕也は一言、二言、口を開くと帽子を取り破顔した。

 昨シーズン限りで14年のプロ生活から退いた石井裕也は、今シーズンからファイターズの打撃投手を務める。先天性の難聴を抱える石井は左耳の聴力がなく、右耳も補聴器をつけてわずかに聞こえるほど。そんなハンディキャップを乗り越え、中日ドラゴンズ、横浜ベイスターズ(現・DeNA)、北海道日本ハムファイターズと渡り歩き、330試合に登板した。