栗山監督がいつも探しているもの

 あれだけ離れた距離から何を見ているのだろうか。そう思ったとき、ある言葉を思い出した。

「兆しを見逃さない」

 栗山監督の先の新刊『稚心を去る』にある言葉だ。一部を引用する。

「兆しは、見える人にしか見えないという。いくら見ようとしても、見えない人には見えない。だとしたらもっと必死に見ようとするしかないのではないだろうか〈中略〉兆しを感じるアンテナをいつも張り巡らせ、敏感な状態を保っておかなければならない」

 本書にはファイターズの哲学であり、栗山監督の信念が綴られている箇所もある。

「すべてはチームの勝利のためでなければならない。それはプロスポーツである以上、当然のことだ。ただ、ファイターズの場合、そこへのアプローチがやや独特だ。監督、コーチだけではなく、チーム全体が選手ひとり一人のために100%向っていくことが、一番チームを勝ちやすくすることだと我々は認識している。「チームの勝利のため」に、「選手ひとり一人のため」を徹底する。そこはいっさいブレることがない」

 選手ひとり一人のためになること、その兆しをつねに探し続けて――遠くから、ずっと見ているのではないか。

 キャンプに話を戻す。この日は、最終日ということもあり、チームは和やかな雰囲気に包まれていた。

 それでも、レギュラー争いが熾烈なサードで、近藤健介、大田泰示、横尾俊建らが声を上げながらノックを受け、ピッチャー陣では、ダッシュする先頭を先発ローテーション入りを期する上原健太が快走し、ブルペンでは宮西が課題を口に出しながら、力強い投球をみせる。

 栗山監督は、そんな姿を遠くからひとりで見て回っていた。

 最後の手締めは、副選手会長の近藤健介。ひととおり、キャンプを手伝い、助けてくれた方々への感謝の言葉を述べた後の言葉は、チームメイトへ向けた「手紙」のようで素晴らしかった。

「この名護に移り、実戦が続き、いい結果が出た選手、そうでなかった選手がいたと思います。開幕まで、一カ月しかありません。個々がレベルアップし、それがチームの勝利に必ずつながってくると思います。このメンバーを見渡せば12球団1、強いチームだと思っています。全員で力を合わせて、最強のファイターズを作りましょう」

 その後の取材で「名前で使わないと宣言したキャンプ、手ごたえは」と聞かれた栗山監督は、この言葉を引用しながら言った。

「(そういう)意識づけはさせてもらったと思っている。ただ、僕以上に、選手が今年優勝したい、っていう気持ち(があることを)をね、やっていてて感じるので。それで充分なんで。選手が一番、勝ちたがってくれるっていうのは、一番チームが方向性出る。近ちゃんの挨拶にあったように、みんながそれを意識してくれてると思うんで、僕らはそういうふうに思ってくれるのであれば、あとは手伝っていくだけだから。しっかり、こっちが判断を間違えないようにやっていきたいと思います」

 選手が誰よりも「勝ちたい」という思いを持っている、その「兆し」を感じたのだろうか。

 ひとおり取材が終わると、囲んだ記者にまで脱帽、一礼をして「キャンプ、お疲れ様でした」と声を掛けた。

 遠くから見えた「兆し」はシーズンにどんな形として現れるのか、楽しみで仕方がない。(敬称略)