日本でも現在上映中の映画『グリーンブック』

黒人天才ピアニストと黒人嫌いな白人運転手

 ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』が、本年度アカデミー賞の最優秀作品賞、脚本賞、助演俳優賞を受賞した。

 この映画は、全米を風靡した黒人天才ピアニスト、ドン・シャリー氏が黒人嫌いの白人運転手、トニー・リップ氏(本名トニー・バレロンガ)とともにディープ・サウス(南部深部)をコンサートツアーした2か月間の体験を描いたコメディ伝記(実は見方によっては社会風刺ものともいえる)だ。

 脚本を共同で手がけたのはリップ氏の息子。父親やシェリー氏から聞き取ったエピソードや手紙を基に執筆、映画化した。「死んだら映画化してくれ」というシェリー氏の遺言だった。

 場所は人種差別の色濃く残っていたルイジアナ、アラバマ、ミシシッピ各州とそこにたどり着くまで通過するペンシルベニア、イリノイ、インディアナなど東部、中西部の州だ。

 南部の州には 日没後、黒人の外出を禁止する「サンダウン・タウン」が点在していた。

 時は、黒人が法的にも市民としての権利を認められた公民権法成立の「前夜」である。

 確かに超高級車キャデラックの後部座席には、いかにも値の張りそうな背広姿の黒人。運転席には粗野なイタリア系ニューヨークっ子が座っている。

 異様な雰囲気だ。それだけで白人と黒人との接触を極度に嫌う南部人の好奇心を誘う。しかもご主人様は黒人でお仕えするものが白人なのだから、なおさらだ。

 コンサートツアーというが、何も大劇場で演奏するわけではない。

 行く先々で待っているのは、天才ピアニストのポップジャズを聴きたい地方の白人名士たちだけ。演奏するのは超一流ホテルやクラブ。

 それでいて演奏するホテルのレストランでシャリー氏は食事もとれない。

 「黒人客お断り」は創業以来の社是だ。シャリー氏がちゃやほやされるのは演奏している時だけなのだ。