金正恩委員長はベトナムに向かう特別列車の中で、これから得られる成果を夢見ながら、列車から見える街並みや風景を見て、一駅一駅通過するたびに、北朝鮮はもうすぐ中国の都市や町のようになるだろうと思いを巡らせていたのだろう。

 会談が始まると、朝鮮中央通信は、「新しく到来する平和・繁栄の時代」「みんなが喜ぶ立派な結果が出る」「成功を祈願する全世界の関心と期待」といった表現を使用して、会談で大きな成果が出ることを期待しているという風潮であった。

 ドナルド・トランプ米大統領の「我々は極めて立派な関係を結んでおり、大いに成功した会談になると確信する」といった言葉も報じた。

 労働新聞は、金正恩委員長の今回の外遊に「全国が沸き返っている」とも伝えた。

 トランプ大統領も金正恩委員長に、ことあるごとに「あなたの国には、経済的にものすごい潜在力がある。あなたには、国の素晴らしい未来が待っているものと思う」と言ってきた。

 金正恩委員長は会談前から、トランプ大統領のお世辞に完全に舞い上がってしまっていたようだ。

2.直接交渉で大胆な決断を期待

 金正恩委員長は新年の辞で、「米朝関係が今年、良好な関係を築くことができる。双方の努力によって今後、必ずよい結果がもたらされると信じたい」と述べた。

 会談の初日、金正恩委員長は「素晴らしい会談、素晴らしい再開が用意されることになったのは、トランプ大統領閣下の大胆な政治的決断によるものだと思います」と述べた。

 北朝鮮はこれまで何度も、金英哲氏を特使としてワシントンまで行かせ、トランプ大統領へ直接、金正恩委員長の親書を渡してきた。それをトランプ大統領は至極喜んだ。

 北朝鮮は、実務協議に参加するマイク・ポンペオ国務長官やジョン・ボルトン大統領補佐官を騙すことはできないが、直接トップ会談で、トランプ大統領と交渉すれば、騙せると考えていた。